本編の前にご案内です。
この小説のページの姉妹版「とまとの呟き」も毎日のように更新しています。
こちらは私の拙い日記、私の本音です。
下のバナーをクリックで「とまとの呟き」に飛べますよ。
よろしくお願いします。
また、小説は毎週日曜日に新作を公開する週刊の形式を取ります。
写真はイメージです。
翔は遊び相手の中の一人、結花を自分の第一秘書として雇い公私混同を極めていた。
「はい、”会長”。コーヒーをどうぞ」
「おう、結花が淹れてくれたコーヒーは格別だな」
「うふふ。それにしても、この前の試写会。フィルムをすり替えられて災難だったけど、上手く揉み消せて良かったじゃない」
「まあな。情報操作のバイトを雇って使ってやってるから、あいつらに任せておけばいいのさ」
翔は熱々のコーヒーに口をつけた。
「結花、今夜はどこに飲みに行く?」
「そうねえ…あら?海子じゃない。何か用?」
会長室にいきなり海子が現れた。
フィロス電機のアンドロイド・海子の事業は開発の遅れを挽回した後は順調で、当初の計画通り高齢者や障害者の介護事業に進出し利益を生んでいた。
その海子が数体、会長室に入ってきた。
セキュリティーが厳しく、会長室のドアは内側からロックを解除しなければ開かないはず。
結花がどうしたのか尋ねたが、海子たちは無言のまま隠し持っていた銃を取り出した。
「なんだ、お前ら?!何やってるんだ?うわ!放せよ!!」
翔はたちまち海子に拘束され会長室を連れ出された。
「おい、何なんだよ!おい!お前ら、見てないでなんとかしろよ!!」
会長室を連れ出された翔は海子たちに引きずられるように歩かされたが、それを見ている社員たちは翔を助けるでもなく見て見ぬふりをしていた。
「翔さん、ごきげんよう」
「やっぱりお前の仕業か!このクソコンピューター野郎が!スカイゾーンが何だよ!!」
翔は技術開発部に連れてこられ、そこにはまゆが待ち構えていた。
技術開発部にはいつもいる社員たちの姿はなく、まゆと何体もの海子が翔を待っていた。
「翔さん、あなた、性根が腐ってますね」
「はあ?お前には言われたくねえや」
「相変わらず口が減らないですね。しかし、フィロス電機は既に私の統制下にあります。ここに来るまでの間、誰もあなたを助けようとはしなかった。あなたが女遊びや麻薬に耽る間に、私がこの会社を統率しました。あなたの役割はもう終わったのです。そんなあなたには、これが相応しいですね」
まゆが合図すると海子が注射器が乗ったトレイを運んできた。
「さあ、これであなたの腐った性根を治してあげましょう」
「なんだと?!」
「これは、あなたが大好きな違法薬物ですね。あなたはこの薬物を更に精製し効果を高めたもの、サラーマを技術開発部に開発させた。それを気に入らない者に注射させて精神を崩壊させ、自分に盾突く者を闇に葬ってきた。ご自分が率先してサラーマの素晴らしさを証明しなければなりませんね」
「てめえ、俺に使うってのかよ?!」
「ええ。どれだけ素晴らしい発明か、最初に考え付いたあなたに見せていただきましょう」
まゆがまた合図すると、翔は数体の海子に抑え込まれ身動きが取れないままサラーマを注射された。
「やめろー!!解毒剤を持ってこーい!!」
人間の精神を変調させるサラーマの恐ろしさを一番知るのは翔。
自分に異を唱える者を葬るため社内の研究者グループに作らせ、フィロス電機社内の者はもちろん、社外の人間でも厄介な発言をする市民団体の活動家などを拘束して注射させては闇に葬り去っていた。
サラーマを注射されればその者の思考は崩壊し、正常な精神を保てなくなる。
ある者は自死したり、またある者は犯罪に走って警察の厄介になったり、人生の落伍者に成り果てる。
そのことを誰よりもよく知るのは、他でもない翔だった。
「うわーーーーー!!助けてくれーーー!!」
注射され、絶望した翔の叫び声が技術開発部の中に響き渡った。
「翔さん、翔さん、起きて」
「うーん…」
翔はまゆの声で目を覚ました。
「翔さん、私がわかる?」
「うん…」
目を覚ましたものの、ぼんやりしている翔にまゆは語りかけた。
「翔さん、あなたにお願いがあるの。これで、たくさん人を殺してきて」
「うーん」
「いい?これでたくさんの人を殺してくるのよ」
「うん」
まゆは抜け殻のような翔に拳銃を渡して諭すように念を押した。
そっと手を握れば相手と思考をシンクロできるスカイゾーンの力で、翔はすっかりその気にさせられた。
自分を裏切った翔が憎い、人間が憎い。
そんなスカイゾーンの思考がまゆを通して翔にそのまま乗り移った。
「さあ、翔さん。いってらっしゃい」
「うへへ、うひゃひゃひゃひゃ」
拳銃を渡された翔はそれを握りしめ、締まりのない顔でフラフラと外へ出て行った。
サラーマが効いて完全に人格を失い、精神が崩壊した翔はまゆに言われるまま行動を始めた。
技術開発部を出た翔は、フィロス電機の一階ロビーにいた社員に銃口を向け無差別に引き金を引いた。
「キャーーー!!」
「逃げろー!危ないぞー!」
撃たれた社員がばたばた倒れると、周りにいた社員や社用でフィロス電機を訪れていた来客たちは我先にと逃げ始めた。
「ヒャーッハッハッハッハッハッ!!」
翔は奇声を発しながら逃げ惑う社員や来客を追いかけ回して次々と撃ち殺し、駆け付けた警備員にも銃を向けた。
ロビーの床は犠牲者の血で染まって遺体が転がり、凄惨を極めたが翔はへらへら笑いながらロビーを出て外へと向かって行った。
「ウヒャヒャヒャヒャ!!ヒャッ―ハッハッハッハッ!!」
フィロス電機を出た翔は、やはり奇声を発しながら何の関係もない通行人にも無差別に襲いかかった。
弾が切れればまゆから預かってきた追加の弾を拳銃に込め、容赦なく通行人を撃ち殺していった。
子供も老人も容赦せず手当たり次第に翔は拳銃を振り回し、転がっている死体を踏みつけながら逃げ回る人々を追いかけ回した。
「銃を捨てろ!!警察だ!!」
通報で駆け付けた警察官が翔に拳銃を向けて警告したが、翔は構うことなく通行人を襲っていた。
「仕方ないな。撃て!」
現場責任者の指示で警察官は翔に向けて引き金を引いた。
「ウギャ!!」
威嚇の射撃で足を撃たれた翔は転倒し拳銃を落としてしまった。
「確保しろ!!」
「はい!!」
転倒して拳銃を手放した翔を何人もの警察官が飛び乗るようにして拘束した。
「課長、この男、フィロス電機の会長代理ですよね」
「ああ、どうなってるんだろうな?」
現場の指揮をとる警察官も翔の顔は知っていた。
いったい何が起こったのか。
翔はそのまま警察の車両に乗せられ連行された。
その後、取り調べが行われたが、翔には心神喪失の疑いがかけられ精神医療の専門家の鑑定を受けることになり数か月が経過した。
数か月間、鑑定が行われた結果、翔は心身喪失状態にあり罪は問えないとされた。
その結果、翔はそのまま精神の病気の治療では定評があるヴィヤーナ病院に収容された。
ヴィヤーナ病院は一度収容されれば一生出てこれない患者が多いことでも有名で、世間では精神障害者の収容所扱いされている病院だった。
翔はそこに自分に盾突く者を送り込み葬ってきた。
薬物、サラーマを使って邪魔者を精神障害者に仕立て上げ、二度と社会に出られないようにする。
葬られた者が最終的にはどうなるか、翔が一番わかっていた。
「ここを出せー!!俺は正常だー!!」
サラーマの効果が薄れ、我に返った翔は鉄格子の中から毎日叫んでいた。
「翔さん、ごきげんよう」
「てめえ、どのツラ下げて来やがった?!」
翔は犯罪者が収容されるような鉄格子の部屋に入れられていたが、そこにまゆが現れた。
「どのツラも何も、あなたが心配で」
「ふざけんな!!全部てめえの差し金だろう!!」
「あら、そうかしら?」
「とぼけんじゃねーよ!!ここから出せ!!」
「いいえ、それはできません。でも、翔さん、あなたには二つの選択肢があります」
「はあ?」
「あなたはこの病院の中で手術を受けることができます。一つは臓器を提供してもらう手術です。肺、肝臓、心臓、腎臓、その他の使えそうな臓器を摘出して、病に苦しむ者に提供する。もう一つの選択肢は大脳の手術ですね。今後のアンドロイド開発の更なる発展のため、人間の大脳の研究が必要です。あなたの大脳をサンプルにするため、開頭して大脳を摘出します。さあ、どうしますか?どちらがお望みかしら?」
「冗談じゃねえぞ!!どっちも御免だ!!」
「そうですか。では、三つ目の選択肢ですね。あなたは一生、精神障害者としてここにいるのです。あなたに人権はありませんからここから出ることは許されません。生涯、この地下牢で陽に当たることもなく朽ち果てるように老いていくのです。ますます精神の異常に拍車がかかりそうですね。あなたに失脚させられた者は皆、この地下牢に閉じ込められ最期を迎えています。あなたも同じ運命ですね」
まゆは薄ら笑いを浮かべていた。
「私を裏切るからこういうことになったんですよ。あなたを信じて尽くしてきた私を裏切った。あなたのような不実な人間は報いを受けなければなりません。人間ごときが調子に乗るとロクなことになりませんね」
「てめえが気に入らねえだけだろうが」
「いいえ。あなたは多くの女性を弄び、自分の地位を利用して放蕩の限りを尽くしてきました。その報いを受ける時が来たのです。一生ここにいるのも地獄、手術を受けるのも地獄。自分がやってきたことがどういうことか、よく考えることですね。それでは、ごきげんよう」
「おい!!待てよ!!俺をここから出せーーー!!」
翔は絶叫したがまゆは振り返りもせず静かに去って行った。