本編の前にご案内です。
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写真はイメージです。
「あ~~飲み過ぎた…」
翔は目が覚めると自分の部屋にいた。
オモルフィのことは途中から記憶がなかった。
国民の輪の誰かが部屋に送り届けてくれたのだろう。
翔は国民の輪が提供してくれたマンションで新しい生活をスタートさせていた。
それにしても豪勢なマンションだ。
まだ殺し屋としての実績もない自分にこんな高級物件を与えてくれるとは。
とにかく二日酔いで頭が痛い。
翔はとりあえずシャワーを浴びることにした。
「さあてと、なんか仕事、来てっかなあ?」
翔はお昼の情報バラエティー番組にチャンネルを合わせながら、スマホを覗き込んだ。
他愛ないメルマガが何通も来ていたが、翔はそろそろそれらも配信停止にしょうかと考えていた。
しかし、メルマガに混じって仕事のメールは来ていた。
国民の輪の専属ヒットマンは他にも何人かいるらしいが、何件も依頼があり選び放題ではないか。
おそらくだが、能力に見合った仕事しか配信されないのだろう。
合宿中からパッとしなかった者は、大した仕事はもらえないだろう。
翔は自分に来た仕事の依頼を眺めながらそう考えていた。
翔に来ているのは国民の輪の活動の邪魔になる左派の政治家や活動家、ジャーナリスト、企業の役員などについての依頼だった。
さあ、その中でも最も報酬が多い仕事に決めよう。
すぐにでも応募しないと他の殺し屋に仕事を取られてしまうかも知れない。
翔は最も報酬が高い企業の役員殺害の仕事に応募しようと考えた。
国民の輪に対抗する民主協働党に多額の献金を出している企業。
デーヴァ重工の会長の首を取れば、高級外車1台ぶんの報酬が支払われる。
翔は迷わず応募ボタンを押した。
ボタンを押すとすぐに返信が返ってきた。
仕事を実行する日時、ターゲットを狙う場所などなど、仕事に必要な情報が送られてきた。
殺し屋稼業といっても今どきの連絡や指示はオンラインがほとんどで、元締めが国民の輪であることはわかっていたが、担当者がどんな人物かは知ることもできなかった。
しかし、そんなことは何も問題ではない。
とにかく一攫千金だ。
仕事は手短に済ませて空いた時間で遊び惚けよう。
翔は殺し屋稼業をゲーム感覚で捉えていた。
翔は初仕事、デーヴァ重工会長狙撃に成功し、部屋に戻ってまたスマホを眺めていた。
会長の死亡がテレビのニュースで流れる頃には、翔の口座にかなりの金額が振り込まれていた。
翔はまだ20代前半。
高額の金が振り込まれても、老後のことを考えればまだまだ足りない。
そう考えた翔はその後もヒットマンの仕事をこなし、そのたびに高額な報酬を得ていた。
そんなある日、一風変わった依頼が舞い込んできた。
「え?これって?」
送られてきたファイルを開くと、さくらの顔写真が目に入ってきた。
さくら殺害の仕事が舞い込んできた。
理由は先代のミカドを暗殺した国賊であるから。
ミカド絶対主義を唱える国民の輪では、先代のミカドを暗殺した人物を血眼になって探していた。
それがさくらだった。
国粋主義を是とする国民の輪は、反逆者を探して始末しようと躍起になっていた。
報酬は当然、かなりの高額。
翔が一生遊んで暮らせるほどの金額だった。
この仕事を納めればヒットマンを辞めてもいいかも知れない。
翔は迷わず応募ボタンを押した。
その後はいつも通り事務的なやり取りが続くだけだった。
ターゲットのさくらを狙う日時、場所などがファイルで送られてきた。
ターゲットは国民の輪のシンボル、ミカドを暗殺したヒットマンのさくら。
さくらは殺し屋の仕事でビルの屋上でターゲットを狙う。
その背後からさくらを狙い仕留める。
翔に送られてきた仕事の手引きにはそう書かれていた。
「ん?何だ、こりゃ?」
翔は後から送られてきたファイルに気づき開いてみた。
「ええ?マジかよ…」
開いてみたファイルの内容を読んでみると、さくらに関するいろいろな情報が明らかにされていた。
翔も知らなかったさくらの正体。
それはかなり意外なもので翔は驚いたが、国家の重要機密に触れた翔に国民の輪の上にいるこの国の支配者の直属の手先とならないかと誘いの文言も書かれていた。
殺し屋のセミナーで優秀な成績を修めた翔に対する、いわばスカウトのようなものだった。
国民の輪の上にはエーカ帝国そのものを支配する闇の支配者がいて、その支配者が翔を評価してくれていた。
勝ち馬に乗りお零れに与りたい。
翔は簡単に闇の支配者に靡いた。
「さ・く・ら・ちゃん」
それから一週間が経ち翔は指示された通りのビルの屋上にやってきて、さくらに声をかけた。
指示のファイルにはそんなことは書かれていなかったが、翔は自分の判断を優先させさくらに直接話しかけた。
「え?翔くん?!」
「さくらさん、何やってんの?」
「何って…」
翔にスマホを覗き見されたことを知らないさくらは、仕事の現場に翔が現れたことにかなり戸惑った。
「殺し屋、だろ?」
「え?」
「惚けったってお見通しさ。さくらさんは殺し屋になったんだ。そして父親のミカドを殺したんだ」
「どうしてそのことを…」
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃん。俺も今はさくらさんと同じ仕事なんだよねえ。知らなかったろ。それにしても自分の親父さんを殺すなんて、さくらさんも酷いなあ」
「あたしは、ミカド制は要らないと思うから仕事を受けただけよ。っていうか、ミカドがあたしの父だって、なぜ知ってるの?」
「ああ、ちょっと小耳に挟んでさ。さくらさん、さくらさんは本当はイズミっていうんだろ」
「ええ?!」
忘れかけていたくらいの昔の名前で呼ばれ、さくらはかなり驚いた。
「イズミ、お前も馬鹿な女だなあ。よりによってミカドをブチ殺すなんてよ。その理由がミカド制はエーカ帝国には必要ないってことか。お前は王族に生まれたことを忌み嫌い、親父であるミカドと縁を切った。王族から離れ自由の身になるために顔を変え、偽物の住民IDを手に入れ、他人に成り済ました。そして、金に目が眩んで殺し屋稼業に手を出した。って、まあ、こんなところだろ」
翔はイズミがこれまで辿ってきた道のりを見てきたかのように語ると、イズミはまた驚いた。
「どういうこと?なぜ、そのことを?」
「あーん。じゃ、図星ってことか」
「誰から聞いたの?」
「国民の輪って知ってっか?」
「あの、極右の政党でしょ」
「そそそ。奴らのボスが誰か知ってっか?」
「岡本の首は私が取ったわ」
「ウヒャヒャヒャ!そうじゃねーよ!国民の輪のボスはな、スパコンだよ!」
「スパコン?」
「ああ、俺も見たわけじゃねーからよくわからんが、どの政党も人間以上に力のあるスパコンの言いなりなんだとよ。政治家なんて金の亡者だし、叩けば埃の出る体だ。その弱みを握られ身動きが取れなくなってる奴らばかりなんだよ」
イズミは翔の言うことをすぐには信じられなかった。
スパコンが政治を支配する世界。
まるでSFではないか。
「そのスパコンはどこにあるの?人間を支配するって、そんなことってあるの?」
「ああ、どーなんだろうなあ。そこまでは俺も知らん。ただ、名前はついてるみたいだぞ。スカイ、スカイ…なんちゃら。忘れちまったなあ。まあ、金さえ振り込んでくれればいいけどな。と、いうわけで、俺はイズミのお命ちょうだいに来たわけだ。その支配者のスパコンからの指示さ。凄腕ヒットマンは一人だけでいいんだ。それは俺だ」
翔はそう言うと、鞄からすばやくピストルを出してイズミの肩を撃ち抜いた。
「うう…」
血を流して倒れたイズミに翔はまたピストルを向けた。
「なあ、イズミちゃん。ミカドをブチ殺してこの国を自由と平等の国にしようと思ったらしいけど、それ、幻想だから」
翔はにやにや笑いながら今度はさくらの脚を撃った。
「いったあいい…」
撃たれた痛みに顔を歪めるイズミを見ながら翔はまた続けた。
「俺もこんなことはしたくないんだけどな。だけど、命令してくるスパコンには逆らわない方がいいみたいなんだ」
「なんで?なんで、あたしがこんな目に遭わなきゃならないの?」
「イズミちゃんさ、殺し屋稼業以外にも余計なことに首を突っ込んだだろ?」
図星を突かれた。
殺し屋稼業の元締め、闇夜の獣の一部にこの国を支配する闇の支配者に反旗を翻す計画が持ち上がっていた。
闇の支配者の正体は不明瞭だが、まずは尻尾を掴もうとするところから闇夜の獣のメンバーは動き始めていた。
自分たちを頭から抑えつける支配者がいては勢力拡大が進まない。
闇夜の獣は政界にも進出し、自分たちの理想の社会を作ろうと企んでいた。
イズミも闇夜の獣の中でそう企む勢力に加担し、情報集めなどを率先して行っていた。
「だーかーらー。そういうのがスパコンの気に障ったんだろ。考えりゃわかるだろ。バッカじゃねえの。ウヒャヒャヒャヒャ。そのスパコンよ、どうやって調べたのかはわからんが、イズミちゃんの正体もお見通しってことさ」
「それで、あたしのことを消しに来たのね?」
「そうだよ。余計なことを嗅ぎ回るうるせえハエは駆除しないとなあ」
翔はピストルの狙いを定めた。
「じゃあな、イズミちゃん。向こうの世界で自分がブチ殺した親父さんと仲良くやんな。ホンッとにバカだな。王族のままでいたら、蝶よ花よで一生安泰だったのに。俺みたいなクズに殺されるのかよ。スパコンがこんなこと言ってたぜ”人間は自ら破滅を招く愚鈍な存在だ”とさ。極右だろうが左翼だろうが人間は争い合うことを止められない。自分だけが正しいと思い込み、自分に都合のいいものしか見ない。いつまで経っても進歩がなく、滑稽でしかない。と、偉いスパコン様が言ってたぜ。全く仰る通りだよなあ。王族だろうが政治家だろうが、一般の庶民だって自分だけが正しいと思い込み、自分と意見が違う奴は消えろと思ってるんだからな。俺は上手くスパコン様に取り入ってオイシイところだけ頂くのさ。ウヒャヒャヒャヒャ」
王族の身分を嫌い、自由と平等に生きたかっただけなのに、どこでどう間違ってしまったのか。
殺し屋稼業に走ったのが駄目だったのか。
動けなくなり痛みに苦しむイズミを見ながら翔は引き金を引いた。
最後に銃声が一発響き、頭を撃ち抜かれたイズミはそのまま首を垂れた。
「ようし、一丁上がりだな。チョロいチョロい」
翔はその場で写真を撮り、仕事を受ける時にも使う殺し屋専用のアプリで送って仕事の完了を報告した。
これでまた多額の報酬が手に入る。
殺し屋稼業は引退だが、どういうわけか翔に惚れ込んだスパコンはそれなりのポストを用意してくれたと言う。
自分の何が気に入られたかはわからないが、今は勝ち馬に乗ろう。
翔はイズミを放置したまま黙って立ち去った。





