本編の前にご案内です。
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写真はイメージです。
「うおおおーーー!!ぎゃおおおおーーー!!」
まやは怪獣のような叫び声をあげながら街を破壊して、逃げ惑う人間を踏み潰し、暴れ回った。
翔は警察と消防署に通報したが、お手上げだという返事が返ってくるばかりだった。
特撮映画に出てくるような巨大怪獣と化したまやを止められるものはなかった。
「安曇さん、あの煙は何かしら?」
フィロス電機の最上階にある副社長室で、窓の外を見ながらまゆは安曇副社長に尋ねた。
「はい、何やら巨大な生物が現れ、手が付けられない状態になっているそうです」
「巨大な生物?公安にはもう問い合わせましたか?」
「ええ、と、ですね…あ、今、情報が入ってきました。ご覧ください!」
安曇副社長は業務に使うタブレットの画面をまゆに見せた。
「これは、まやですね?」
「さようでございます」
「まやが巨大化して暴れ回っているということ?」
「ええ、市民からはもう通報が相次いでおりまして、警察や消防が現場に向かっているそうです」
「ふうん。それって、意味あります?」
「は?」
「警察や消防の手に負えるものではないでしょう。余計に被害が大きくなるだけです」
「では、どうすれば?」
「国家防衛軍を出動させる必要があります。そう思わないんですか?」
「しかし、国家防衛軍を出動させるには、閣僚会議で承認され、総理大臣が署名する必要がありますが」
「だから、あなた達人間は駄目なんです。この緊急事態に何を悠長なことを。さっさと軍を投入しなさい!ぐずぐずしていたら、ここも巨大化したまやの攻撃対象になりますよ」
「か、かしこまりました!」
安曇副社長は外線にも繋がる電話機の受話器を上げた。
「総理!スカイゾーン様からのメッセージが届きました!」
「よし、スクリーンに映せ!」
就任したばかりの花村総理は、首相官邸内に設けられた対策本部で指揮を取っていた。
しかし、政府も陰の支配者であるスカイゾーンには逆らうことはできない。
スクリーンにまゆが映し出されると、花村総理は恭しく頭を下げた。
「花村さん、状況はわかっていますね。巨大化した生物はまやです。警察や消防では太刀打ちできません。国軍を投入しなさい」
「はは!既に空軍が現場上空に向かっております。しかし、スカイさま、まやはなぜ巨大化したのでしょう?」
「それは、巻き物の解析をした私に間違いがあったとでも?」
「いえ、決してそのような意味では…」
「では、まやを制圧しなさい。上手くいいけば、あなたは国の英雄ですよ」
国の英雄。
それが目先に吊るされた人参のようなものだと、花村総理大臣はわかっていたが食い付くしかなかった。
こうしているうちに空軍が現場の黄金町上空に到着し、上官の指示が出ると一斉に爆撃が始まった。
「うおおおおーーーー!!ぐおおおおおーーー!!」
爆撃を受けたまやは苦痛に顔を歪め、ますます激しく暴れ回った。
そして、次の瞬間、口を大きく開けると火炎放射器のように空軍の飛行機を目がけて熱線を吐き出した。
「うわああああーーー!!」
対策本部の通信機器からパイロットの悲鳴が指令室内に響き渡った。
一瞬にして国家防衛軍の空軍の精鋭部隊が焼かれ、撃墜された。
まやは想像以上に手強い怪物に進化し続けている。
空軍の後に到着した陸軍の戦車部隊もまやに踏み潰され、一溜まりもなかった。
「総理、部隊が全滅です…いかがなさいますか?」
「うーむ…」
全権を握る花村総理は頭を抱えた。
ここで退却しては自分の政治生命にも関わる。
ここは怪物を退治し、自分の株を上げるチャンスではないか。
しかし、想像以上にまやは手強い。
もう、まやは神でもなんでもない化け物だ。
花村総理は国軍に時間を稼がせている間、作戦を練り直すため全閣僚を呼び寄せることにした。
「総理!どうしますか?!国軍でも敵わない相手にどう攻撃しますか?」
「それを考えるために君たちを呼んでるんだ。何か案はないのかね?」
集まった閣僚たちも頭を抱えた。
こうしている間にも、まやは街を破壊し、エーカータ国の首都・エーカータシティーは壊滅の危機を迎えていた。
自家用車で脱出しようとする者、空港に押しかけて国際便に乗ろうとする者だけでなく、船で国を脱出しようと港にも多くの市民が押し寄せていた。
「マハートマンミサイルしかありませんかねえ」
普段は影が薄い環境省の大臣、上田がポツリと漏らした。
「マハートマンミサイル?上田大臣、正気かね?!」
「空軍も陸軍も秒で制圧する相手ですよ。ここはもう、最終兵器しかないのではないですか?」
上田環境大臣は、異を唱える経済大臣にそう言い返した。
マハートマンミサイルは核を搭載したミサイルで、持つだけで他国からの侵略を思い留まらせる抑止力になっていた。
それを使う時は戦争の最終局面においてで、それしか手段がないと判断された時。
使えば放射能汚染の恐れがあり、国土も破壊される。
民間人にも相当の被害が出るとシュミレーションされ、事実上は禁じ手とされていた。
閣僚会議にはリモートでスカイゾーンも参加し、意見を求められるとこう答えた。
「それは、あなた達人間が決めることですね。我々、アンドロイドはマハートマンミサイルの爆心地にいても痛くも痒くもありません。もちろん、放射能の影響も受けません。まやが死ぬのか、人間が滅びるのか。よく考えることですね」
つまり、アンドロイドは高みの見物か。
人間のことなど何とも思っていないのだろう。
それは以前から思っていたことだったが、やはりそうだったのか。
どの閣僚も内心ではそう思っていたが、支配者のスカイゾーンの前では口に出すことは憚られた。
マハートマンミサイルの発射ボタンは首相官邸の地下室にある。
地下室はシェルターも兼ねていて、10000人ほどなら収容できる広さだった。
有力な政治家やフィロス電機の関係者などを中心に、そのシェルターに収容する人間を決めて避難させ、避難が終わればマハートマンミサイルの発射ボタンを押す。
他の大部分の人間は切り捨てる。
そんなことが淡々と決められた。
今まで手を組んできた神社連盟の関係者は避難対象から外された。
理由は簡単でまやのような化け物を管理もせずに野に放った責任を取ろうともしないから。
憲民党の議員やその家族、党員、アンドロイドと切っても切れない関係のフィロス電機の関係者がシェルターに優先的に入ることが決定された。
そして一定額以上の献金を憲民党に納めてきた者も優先的にシェルターに入ることができるとされた。
こんな時でも、いや、こんな時だから金がものを言うのだ。
しかし、これだけでも10000人は超え、神社連盟の関係者はシェルターに入り切らない。
神社連盟は憲民党やフィロス電機に力を貸すような素振りをしておいて、実際は自分たちこそがこの国を統治するに相応しいと考えていることが見え見えだった。
今までは表面上だけ協調してきたが、非常時の今は綺麗事では済まされなかった。
その次の日から、秘密裏のうちに限られた者たちだけがまやの攻撃の隙間を縫うように首相官邸の地下に避難する準備を始めた。
「官房長官!大変です!」
「ん?どうした?」
「マハートマンミサイルの発射装置がなくなっています!」
「なんだって?!」
普段は誰も入らないシェルター内にあるはずのマハートマンミサイルの発射ボタンが消えていた。
シェルター内を見渡す防犯カメラは壊されていて、何者かが侵入したと思われたが防犯カメラが壊されていては証拠画像は一切残っていなかった。
「まさか、あり得ん!誰かが持ち出したとしても…いや、そもそも持ち出すことなど不可能だ!」
最終兵器の発射ボタンの所在がわからなくなった。
発射ボタンは小さな鉄製の箱に入れられ、持ち運びもできるようになっていたが、これでは、いつ、誰が、どこで押すのかもわからない。
シェルターに入れるだけの人数を避難させる前にボタンが押されたりすれば、エーカータ国のほとんどの人間は死ぬ。
こんなことが国民に知られたら、パニックが起きてシェルターに国民が殺到するに違いない。
なんとしても、秘密を守ったまま発射ボタンを見つけなければ。
官房長官はとにかく発射ボタンを見つけ出すよう、部下に指示を出した。
「ねえ、これでいいんでしょ」
のぞみはシェルターから持ち出したマハトーマンミサイルの発射ボタンをスカイゾーンに見せて確認してもらっていた。
「結構ですよ。これで、あの化け物も終わりですね」
のぞみはスカイゾーンから発射ボタンを持ち出すよう持ちかけられ、持ち出していた。
言われた通りに防犯カメラを壊してシェルターに侵入し、セキュリティーの電源を切って証拠を残さずマハートマンミサイルの発射ボタンを持ち出していた。
シェルター内の防犯カメラの位置、どこにいくつ設置されているか、シェルター内にはどうやって入るかはスカイゾーンが解析すればすぐにわかることだった。
その解析そのまま、指示通りにのぞみはミサイルの発射ボタンを持ち出していた。
「あなたの安全は保障します。小賢しい人間が、シェルターに入ることを許された人間だけで今後もこの国を存続させようなどと、傲慢にもほどがあります。だから、あなたに頼んだんですよ。あなたは、この国にうんざりしているのでしょう?空子、例のものを」
スカイゾーンがそう言うと、空子がアタッシュケースを持ってきて開けた。
中に入っているのはエーカータ国から離れたミューラ国のパスポートと、クレジットカードが3枚、今日の日付の片道の航空券、そしていくらかの現金だった。
パスポートもクレジットカードも偽造で、のぞみの名前ではなく別人の名前が書かれミューラ国民になり済ませるものになっていた。
これを持ってエーカータ国を離れ、遠い国で別の人間として生きていく。
整形したことでのぞみは既に別の人間になってはいたが、また更に身分を偽る。
のぞみはそれでも構わなかった。
ずっと願っていた、堅苦しい神社の娘としての人生から逃れること。
神などいはしないのだ。
それは、まやを見てきてわかり過ぎるほどわかっていた。
神の本音は人間と変わらない邪なものなのだ。
いや、それ以上だろう。
神を終わらせるための最終兵器のボタンをアンドロイドに渡す。
薄汚い権力者が跳梁跋扈し、政治も乱れきっている。
しかも、それを指示する国民が少なくない。
エーカータ国は一度終わらせた方がいい。
のぞみはそう考えてスカイゾーンの申し出に乗ったのだった。
「では、今日の便でエーカータ国を離れますよね。楽しみですね。この国がどう堕ちていくのか。我々、アンドロイドがこの国を引き継いでいくことになるでしょう。あなたは保守的な神社の娘としてこの国の政治や宗教のあり方に嫌気が差していた。まやを呼び出すために舞まで踊らされ、うんざりしていた。だから、私はあなたに声をかけたんです。今日、あなたの乗った飛行機が国境を超え、安全なところまで航行したら発射ボタンは押されます。国際的なニュースにもなるでしょうからお楽しみに」
「いろいろ、ありがとう。人間よりもアンドロイドの方が頼りになるなんてね」
「それは、よく言われます。良い旅を」
スカイゾーンは外見は14歳の美少女だが、中身は冷酷なアンドロイド。
それでも、のぞみの身の上を理解してくれた。
のぞみはそう思った。
マハートマンミサイルの発射ボタンを盗み取るために利用されただけかも知れないが、のぞみはそれでも構わなかった。
その見返りに別人として外国に逃がしてもらう。
アンドロイドの方が人間の愚かさを弁えていているのかも知れない。
窮屈だった神社の生活、偽善と欺瞞しかない神との関わり。
それらを一切捨てて、のぞみはミューラ国行きの飛行機に乗りエーカータ国を離れた。
その3日後、ミューラ国の五つ星ホテルのプールサイドで、のぞみはトロピカルカクテルを飲んでいた。
プールサイドでも世界中の主な放送局の番組が見られたが、国際ニュースの番組を見ていると、エーカータ国で核を搭載したミサイルが暴発した話題を取り上げていた。
正体不明の怪物が現れ、最終兵器として核ミサイルが放たれた。
しかし、怪物は倒れなかった。
倒れたのは核爆発に巻き込まれた国民だった。
被害の規模の詳細はまだ伝わってきていなかったが、マハートマンミサイルの性能を知るのぞみはエーカータ国が間もなく終わることを確信していた。
一度ボタンを押せば、何発ものマハートマンミサイルが発射される。
一発目では倒れなかったまやも、連続して何発も打ち込まれれば倒れるだろう。
そんな風に考えながら、のぞみが椅子から立ち上がろうとしているところに、プールサイドには相応しくないようなスーツ姿の男が数人現れた。
「伊藤のぞみさんですね?」
「え?」
自分はもう昔の自分を完全に捨てたはず。
昔の名前で呼ぶ者はいないはず。
のぞみが返答に困っていると、一枚の紙を提示された。
「国家反逆罪で逮捕します」
のぞみは一瞬、何が起こったのかわからなかった。
「国際警察本部までご同行願います」
「ちょっと!何なの?!離してよ!!」
のぞみはプールサイドにいた他の客が見つめる中、両脇を私服捜査官に押さえられ連行されていった。





