喫茶プリヤ 第四章 十話~傲岸不遜

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写真はイメージです。

 

その日は突然訪れた。

国の捜査機関、保安省の捜査局による強制捜査が行われ、フィロス電機に捜査員がやって来て証拠になる書類や資料を押収、翔も身柄を拘束された。

 

「おい!何なんだよ?!俺が何をしたって言うんだ?!」

「二階堂翔、業務上横領と政治献金規制法違反の容疑で逮捕する」

 

捜査局の捜査員は令状を広げて見せると、翔に手錠をかけた。

 

「だから、俺はそんなことしてないって!」

「話は捜査局で聞く。おい、連れていけ」

 

責任者らしい捜査員の指示で翔は両脇を固められ、捜査局の車に乗せられていった。

 

 

「おい!お前ら、こんなことしてどうなるかわかってんだろうな!」

「二階堂さん、あなたは会社名義のカードを私的な買い物に使ったり、経理部に働きかけて違法な献金を憲民党に納めていましたね」

「はあ?正当な使い道だろうが。それに、買い物は俺のカードを使ってんだぞ」

「では、これは何ですか?」

 

取り調べの捜査員は書類を机の上に置き、広げて見せた。

その書類にはまゆとブティックで洋服を買った記録や、その他、個人的な飲食、お気に入りの女優の卵と行った旅行代金、高級クラブのホステスに贈ったプレゼント代など、翔の私的な購入履歴が記されていた。

 

「し、知らねえよ、そんなもの。とにかく俺は弁護士が来るまで何も喋らないからな」

 

翔は黙秘を決め込んだ。

 

「会長、今回の件は不当逮捕です。が、ご安心ください。私が48時間以内に会長の身柄拘束を解き、ここから出られるようにします」

「おう、そうしてくれよ」

 

面会に来たフィロス電機の顧問弁護士、幸田はきっぱり言い切った。

仮にまゆのためにカードを使い、憲民党に献金したとして、何が悪いというのか。

翔は全く反省していなかった。

 

それから24時間後、幸田の言う通り翔は捜査局の勾留施設から解放された。

 

「会長、大変でしたね。花村先生が力添えしてくれましたからもう大丈夫です」

「ああ。ったくもう、捜査局の奴ら、どこから嗅ぎ付けて来やがったんだ?」

 

勾留施設を出て会長専用車に乗った翔は、自分が会社のカードを利用していたり、憲民党に裏金を渡していることがどこから漏れたのか気になっていて、一緒に車に乗り込んだ顧問弁護士の幸田に尋ねた。

 

「まだ調査に着手したばかりですが、我が社の経理部門から誰かが情報を流したようです」

「はあ?チクりやがったのかよ?」

「はい。今、どの者が情報を持ち出したのか調査中です。もちろん、特定ができ次第、銀嶺会に動いてもらいます。反逆者は処分しなければなりませんからね」

「何だよ、余計なことしやがって。そんな奴は海にでも沈めてしまえ。誰かわかったら、たっぷりお礼はしてやろうぜ。ところでよ、マスコミ対策はどうなってる?」

「お任せください。今回のことは不当逮捕であり、会長に対する非常に悪質な誹謗中傷であると、明日マスコミ各社に通達いたします」

「お、そうしてくれ。俺の名誉に傷がついたからな」

「はい、かしこまりました。お任せください」

 

会長専用車が翔が住むマンション前に到着すると、翔は車を降り、お気に入りのモデルの卵が待つ部屋へと帰っていった。

 

 

それから一週間後、フィロス電機の経理部の社員が車ごと港に浮かんでいるのが発見された。

 

「では、次のニュースです。今日未明、スラバーナ港で男性を乗せた乗用車が浮いているのを漁に出ようとしていた漁船が見つけ、警察に通報しました。車から発見されたのはフィロス電機社員の男性で…」

 

ニュース番組でアナウンサーが事実を淡々と伝えるのを、翔は人気女優といちゃいちゃしながら部屋で見ていた。

 

「お、やってるなあ。俺が命令した通りじゃん」

「翔さん、これで、一件落着ね」

「そうだな。銀嶺会の奴ら、海に沈めろと言ったらホントに沈めてやがんの。さすが、うちの会社のケツ持ちどもだな!ヒャーッハッハッハッ!」

 

翔は反社会的勢力の銀嶺会に命じ、翔が関係した金の流れを告発した経理部の社員の口封じと報復に成功した。

 

「翔さん、花村代議士とも親しいんでしょ?もう無敵ね」

「まあなあ、花村の娘と見合いもしないかって話もあるんだけどなあ。俺には沙織もいるからなあ。どうしよっかなあ」

 

翔はへらへら笑いながら女優の沙織の尻を撫でまわした。

 

「さてと、俺、会社に行ってくるわ。今日は消費者団体と会わなきゃならねえんだ」

「消費者団体?何それ?」

「ああ、アンドロイド開発、販売について意見交換だとさ。要するにあいつら、アンドロイドが世に出るのが気に入らないだけなんだよ。あまりうるさいようだと、また銀嶺会に追っ払ってもらうさ」

 

翔はそう言うと立ち上がり、出かける支度を始めた。

 

「会長、おはようございます」

「おいっすっ」

 

翔は悠々と会長専用車の後部座席に乗り込んだ。

車に乗り込むとカーラジオからいつも聞く番組が流れていた。

 

「宮川、お前、この番組が好きなんだな」

「ええ、昔ながらの雰囲気がある番組ですからね。聞いていてホッとするんですよ。あ、まゆちゃんの新曲ですよ」

 

カーラジオからはアイドルになり大活躍中のまゆの曲が流れてきた。

まゆは最近はめっきりフィロス電機に来ることもなくなり、まゆと翔は疎遠になっていた。

翔が他の女性と違法薬物に溺れ、乱交同然の乱れた姿でいるところを見て以来、まゆはフィロス電機に来ることはなかった。

まゆはスカイゾーンとして福祉事業のために働く気はなくなったのだろうか。

アンドロイドの海子を開発して、激増した高齢者の介護や障害者のサポートをする使命を放棄してしまったのだろうか。

翔はそもそも福祉事業に興味がなかった。

ただ、ユーザーとなる福祉の対象者は多く、海子が市場に出荷されれば莫大な利益が予想される。

翔は金儲けにしか興味がなく、事業の最終決定に必要な会長印を押すだけであとは社員に任せっぱなしだった。

金儲けを邪魔する市民団体や消費者団体がアンドロイド開発や販売に反対すれば、反社会的勢力や政治団体の力を借りて追い払うのみ。

懇意にしている花村代議士や銀嶺会の力を利用して翔は思いのままだった。

 

「会長、まゆちゃんの曲はいつ聞いてもいいですよねえ」

 

まゆの正体がスカイゾーンとは知らない宮川は、まゆのファンを公言していた。

 

「ああ、まあまあじゃねーの」

「うちの娘もファンなんですよ。来月の初ライブもチケットが取れて楽しみにしてますね」

「ふーん、そんなもんかねえ」

 

朝早いせいで、翔は眠そうにあくびをしながら適当に聞き流していた。

 

「会長、お疲れのようですね。今夜もテレビ局の幹部と食事会ですが」

「ああ、接待な。奴ら、広告料が欲しくて欲しくて俺の御機嫌を取ろうと躍起なんだよ。まあ、いいさ。旨いメシと酒、綺麗なねえちゃんが付いてくるなら付き合ってやってもいいしな」

 

テレビではフィロス電機のCMが流れない日はなく、新しく開発するアンドロイドなどの広告が大量に流されていた。

アンドロイドの普及は国を挙げての国策で、その事業をフィロス電機はほぼ独占していた。

そのフィロス電機からCMの仕事を取れれば莫大な利益が生まれる。

いろいろな広告代理店が翔に接待攻勢をかけてきていた。

 

「あーあ、接待も飽きてきたぜ。宮川、なんか面白い話ないか?」

「そうですねえ、実は私も娘の付き添いでまゆちゃんのライブに参加するんですよ」

「え!マジかよ!!」

 

翔は身を乗り出すようにして運転席の宮川を笑った。

 

「マジかよ!!ヒャーッハッハッハッ!!お前、おっさんがアイドルのライブって…ウヒャヒャヒャ、こいつは傑作だな!!」

「やっぱり可笑しいでしょうか?」

「いや、そんなことはないけどよ…」

 

佐伯まゆがフィロス電機の最高傑作、スカイゾーンの部品の一部であることは技術開発部の人間か一部の役員しか知らない。

会長車の運転手の宮川はもちろんそのことを知らない。

だからといってライブに参加するほど惚れ込んでいるとは。

翔は大勢いる遊び相手のうちの一人としか考えなくなっていたが、それでもまゆの愛らしさは別格だと認めていた。

そのまゆがこんなにも人気が出るとは。

遊び相手としてだけではなく、何か利用価値はないか。

 

「佐伯まゆってそんなに人気なのかよ。そうだ!うちの会社のCMにでも出せばよくね?」

「おお、会長、いいですねえ」

「だろ!!好感度も高いみたいだしよ。全方位に働きかけできるな!よし、今日の接待、まゆをうちの会社のCMに起用するよう言ってみるか」

「さすが会長です。まゆちゃんを起用すれば商品の売り上げは伸びますよ」

「だよなあ。この俺様のアイデア、我ながら冴えてるぜ」

 

翔は宮川におだてられ、我ながらいいアイデアが浮かんだと頬が緩みっぱなしだった。