喫茶プリヤ 第四章 九話~悪だくみ

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イラストはイメージです。

 

「フィロス電機はアンドロイド開発を止めろー!」

「アンドロイド市民権、ハンターイ!」

 

フィロス電機前では今日も市民団体のメンバーが集まり、アンドロイドの開発に反対するシュプレヒコールをあげていた。

定期的に現れる市民団体は、フィロス電機が目指すアンドロイドの市民権獲得に反対し、社屋の前で声をあげるだけではなく通行人にビラを配ったり、マイクで自分たちの主張を拡声したり盛んに活動していた。

 

「おい、丸山。どうなってんだ?」

「申し訳ありません。すぐに追っ払います」

 

翔はフィロス電機の最上階にある会長室から地上を見下ろし、市民団体の様子を苦々しく見ていた。

 

「銀嶺会はどうなってんだよ。ちゃんと連絡して手を打たせろ。それがお前の仕事だろ」

「はい、申し訳ございません」

「ったくもう、お前も使えねえな。ちゃんとやれよ、代わりはいくらでもいるんだぜ」

「はい…」

「俺は出かけてくるから、奴らを追っ払っておけよ。政府のアンドロイド審議会の会合、面倒くせえけど俺がいなきゃあの会合はまとまらないからな」

 

翔はイライラしながら秘書の丸山に反社組織を呼んで、市民団体を追い払うよう言いつけると会長室を出て行った。

政府が主催のアンドロイド審議会。

将来予定されるアンドロイドと人間の共生を議題に、未来のアンドロイド開発はどうあるべきか、それを審議するのがアンドロイド審議会だったが、それは表向きの建前に過ぎなかった。

審議会の実態は最大与党の憲民党を中心にまとまり、フィロス電機やその他のアンドロイド開発を手掛ける企業の団体で構成されていた。

その中でもフィロス電機の発言権は強く、事実上は憲民党とフィロス電機によるアンドロイド政策推進のための会合と化していた。

アンドロイドの開発を推進し、人間並みかそれ以上にまで性能を高め、人間とアンドロイドを共生させ、アンドロイドに福祉の分野での働きをさせる。

障害者や激増した高齢者の介護を担わせ福祉に貢献させる。

アンドロイドと人間の完全な共生社会を目指し、アンドロイドにも人間と同じ人権を与えるが、それと共にアンドロイドにも勤労や納税の義務を課す。

そのことを通して減少する人口や税収を補う。

このような建前が審議会では議論されていたが、翔は退屈だった。

これらのことは単なる建前で、実際はアンドロイドを人間社会に食い込ませ、やがては人間を支配させる。

いわば、アンドロイドを通してごく一部の支配階級の人間が市民を支配する。

審議会を構成する憲民党とフィロス電機の狙いはこういうことだった。

それでも、翔は退屈で会合の間、何度もあくびをして心ここにあらずな状態だった。

会合など早く終わらせ、高級クラブに遊びに行きたい。

憲民党幹部の接待をするついでに綺麗どころが揃ったクラブに繰り出し、美女をはべらせて高級酒に溺れたい。

翔はアンドロイドによる人類支配の話もどうでも良かった。

何があっても自分は支配階級の人間。

翔はそんな慢心のような気持ちでいるだけだった。

 

「ウヒャヒャヒャヒャ!花村センセイも好きっすねえ!」

 

アンドロイド審議会が終わると、翔は憲民党の幹部と共に夜の街に繰り出した。

高級クラブのオモルフィには反社会的勢力の銀嶺会の幹部が先に来ていて、憲民党とフィロス電機の関係者が現れると更に酒が運ばれホステスの人数も増えた。

憲民党、フィロス電機、銀嶺会は互いにズブズブの関係で建前ばかりの表舞台ではなく、オモルフィでの酒の席で重要な案件は決められていた。

翔は憲民党の代議士で次の総理大臣に最も近いと言われる花村権蔵の隣に座り、高級酒を呷り浮かれていた。

 

「二階堂くん、今度、うちの娘と見合いしないか?」

「へ?俺が?花村センセイの娘さんと?」

「うむ、君には私の後継者になってもらいたい。次の選挙に出て私の地盤を継いで欲しいんだ」

「へへへへ、いい話っすねえ」

 

翔は花村代議士から後継者に誘われ、ますます機嫌を良くして酒をまた呷った。

 

「二階堂くんは若くて有能だ。その若さでフィロス電機をまとめる経営の手腕も大したものだ。有権者ウケもいいだろうし、将来的には我が憲民党を背負って立ってくれ」

「いやあ、俺みたいなのが、いいんっスか?」

 

翔はおだてられていい気になり、隣に座っていたホステスの尻を撫で回しながらにやけていた。

高級クラブでの酒の席では建前ばかりの審議会では憚られるような話題もぽんぽん飛び出し、政界と財界のどす黒い癒着が明らかになるような話が進められても、翔は平然と酒を飲み薄ら笑いを浮かべて話に聞き入っていた。

 

「花村センセイ、俺、帰っていいっすか?これが来るんで」

 

酔っぱらった翔は小指を立ててにやにやしながら立ち上がった。

 

「おお、そうかそうか。まだ若いからな。大いに遊ぶといい」

「へへ、でも、センセイのお嬢さんと一緒になったら遊んじゃダメっすかねえ」

「まあな。しかし、バレなきゃいいんじゃないか?」

「やっぱ、そうっすよねえ!ウヒャヒャヒャヒャ!」

 

翔は上機嫌のまま酒席を後にした。

 

「花村先生、よろしいのですか?あのような軽薄な若造をその気にさせて」

 

翔がいなくなると、同席していた若手の議員が翔の不遜な態度に眉をひそめた。

 

「軽薄だからいいんだよ。あの手の若い奴は根拠のない自信ばかりで中身がない。生意気なだけで頭は空っぽだ。そこを利用してやるんだ。若手経営者のホープとして持ち上げるだけ持ち上げてやるんだ。若くていいイメージがあれば有権者の票が集まるしな」

「なるほど。票集めの客寄せパンダというわけですな」

「そうそう。あの若造、利用価値はあるからな。わっはっはっはっは!」

 

花村代議士は高笑いしながら酒の入ったグラスを傾けた。

 

「なあ、宮川。俺さ、花村代議士からスカウトされたんだぜ」

「と、仰いますと?」

「あのさ…」

 

翔は帰宅する車の中で運転手の宮川に花村代議士とのやり取りを自慢した。

 

「それはすごいですね。花村代議士の後継者ですか」

「そそそそ。俺の30年後は総理大臣かもなあ。うへへへ」

 

翔は酒臭い息をぷんぷんさせながら締まりのない顔で笑った。

 

「しかし、会長。花村代議士の周辺は何かと曰く付きですよ」

 

宮川は運転しながら今までに起きた事件を挙げた。

花村代議士の娘と見合いし結婚して議員にも当選した若者がいたが、初登院の日に爆弾入りの花束を渡され議会の玄関前で爆死した事件。

その後も花村代議士の後継者として何人かの若者が推されたが、不審死したり行方不明になったり何かとキナ臭かった。

 

「まあ、そりゃあそうだろ。花村が一番胡散臭いんだしな」

「会長、あまり深入りしない方がよろしいのではないですか?」

「大丈夫だよ。俺がそんなヘマするように見えっか?」

「いえ、決してそんなことは…」

「だろ。なら黙ってろよ」

「はい…ただ、会長、スカイゾーンのことですが…」

「何だよ?まゆがどうかしたか?」

「はい。最近、めったに会社に姿を現さなくなり、海子のプロジェクトも遅れております。技術開発部でも困っておりまして…如何いたしましょう?」

 

宮川が言うにはまゆはスカイゾーンとしてアンドロイドの海子の開発の務めがあるはずなのに、会社に姿を現さくなってしまったということだった。

 

「あ?それは技術開発部の問題だろ。まゆがいなきゃいないで、人間が開発の業務を進めればいいだろ」

「それはそうですが…」

「あいつは自分の意思でアイドルになったんだ。そっちの仕事が忙しいんだろうよ。大体だなあ、スーパーコンピューター一台に依存してねえで技術開発部の人間が仕切ればいいことだろうよ。技術開発部にはそう言っておけ」

「かしこまりました」

「それとよ。アンドロイド新法に反対するレジスタンスの奴ら、面倒だから潰せよ。丸山ともよく相談してあいつらの活動を止めさせろ」

 

翔にとってアンドロイド開発に反対する市民団体は目の上のたんこぶのようなものだった。

 

「奴らがぎゃあぎゃあうるせえと、アンドロイドのイメージが悪くなるだろ。俺らはアンドロイドに市民権を持たせて大量の出荷を目指してるんだ。それを邪魔されたら商売あがったりじゃねえか。俺はな、アンドロイド審議会の次の議長に推薦されているんだ。金を儲けて要職にも就くんだ。それを邪魔する奴らは容赦しねえ。わかったか!」

「はい。銀嶺会に動いてもらいます」

「そうそう、それでいいんだよ」

 

翔は会長専用車の後部座席に付いている冷蔵庫から缶ビールを出して呷った。

 

「おい、宮川、俺が政治家になったらよ、お前を運転手で使い続けてやってもいいんだぜ」

「それは、ありがたいお言葉です」

「だろ!ウヒャヒャヒャヒャ!」

 

翔は浮かれて缶ビールを次々と空け高笑いが止まらなかった。