本編の前にご案内です。
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写真はイメージです。
彩音は白薔薇女子中学、高校の頃からの友達にも大学で無視され続けていた。
美琴を中心とするブルーエイジの仲間だけではなく、それには関係ないはずの友達からも無視されるようになっていた。
どうやらブルーエイジのメンバーが、あることないことがごちゃ混ぜになったことを吹聴し彩音を孤立させていた。
すっかり一人で行動するようになった彩音だったが、その後、桐生からの連絡も途絶えていた。
そういえば、三澤も関わっている怪しげな人物たちの悪行を告発すると言っていたのはどうなったのか?
彩音はそんなことを考えながら、定期購読している女性誌を受け取るために書店に立ち寄った。
お目当ての女性誌を受け取ると、他に面白そうな雑誌でもないか、彩音は書店の中を一回りした。
「あら?」
週刊誌のコーナーの前を通りかかると、彩音の目にセンセーショナルな見出しが飛び込んできた。
”売れっ子ミュージシャンの闇!!三澤俊介の正体を暴く!!”
なんと、三澤が名指しされているではないか。
彩音は慌てて週刊誌、週刊スクープを手に取った。
中にはどんなことが書かれているのだろうか。
彩音はそのままレジに向かった。
週刊スクープはトップクラスの発行部数を持つ老舗の男性誌で、彩音は帰りの電車に乗ると三澤の記事が出ているページを開いて食い入るように見た。
”三澤俊介と宗教団体との黒いパイプ!!”
”熱狂的なファンの神、三澤俊介!とうとう本物の神へ?!”
”知らないのは熱狂的信者だけなのか?!”
週刊スクープの紙面には煽るような文言が並び、三澤とまごころの朋の関係をすっぱ抜く内容になっていた。
記事を書いたライターの紹介欄を見ると、そこには顔写真つきで桐生誠と堂々と記されていた。
彩音と会った時に桐生が言っていた通りだった。
本当に暴露記事を発表するとは。
こんなことをして大丈夫なのだろうか。
記事の最後を見ると、これは編集部独自の企画で今後は連載で何回か続けていく。
そう書かれていた。
思いきったことをしたものだ。
連載で続くということは、今後、三澤に関する他のことも出てくるのだろうか。
気になった彩音は教えてもらった桐生の連絡先にメッセージを送ってみることにした。
三澤と宗教団体、まごころの朋との関係の暴露記事が週刊誌に載り、ブルーエイジのメンバーは激しく憤った。
「ひどいわ!!ひど過ぎる!!俊介さまを侮辱してるわ!!」
「抗議しましょう!!こんなこと言われて黙ってられないわよ!!」
「そうよ!!許せないわ!!」
まごころの朋が危険なカルト集団だということは、ブルーエイジのメンバーもわかっていた。
そのような団体と三澤が関わっているなど到底信じることはできない。
ブルーエイジのメンバーは憤ったが、既に自分たちがまごころの朋に利用されているとは気づいていなかった。
「抗議のメール送りましょうよ!」
「そうよそうよ!!絶対に許せないわ!!」
白薔薇女子大内での活動場所、軽音楽同好会の部室に集まったブルーエイジのメンバーは怒りの声をあげ、各自が持つスマホから出版社に対して抗議のメールを送信した。
もちろん、ブルーエイジの代表、美琴は部室のパソコンからもメールを送信した。
さて出版社からの回答は如何に?
ブルーエイジのメンバーは首を長くして待っていたが、数日経っても一向に返信は来なかった。
白薔薇女子大でブルーエイジのメンバーとして活動する以外の、純粋に軽音楽同好会の部員として活動する学生にも美琴はメールを送って抗議を呼びかけていたが、出版社からの返信は全くなかった。
もう、じっとしてはいられない。
直接、出版社に出向こうか?
「どうする?!やっぱり直接行った方がいいかしら?!」
「そうね!今からでも、記事を取り下げさせましょうよ!」
「美琴、うちの大学以外の人にも呼びかけましょうよ!」
白薔薇女子大以外のブルーエイジのメンバーにも呼びかけ、皆で出版社に直接抗議しよう。
仲間のそんな声を受け、美琴はまた部室のパソコンからメッセージを送って行動することを呼びかけた。
三澤に対する失礼な記事を書いた出版社を許してはならない。
メンバー全員で抗議するべき。
出版社前で集合してこちらの言い分を認めさせよう。
美琴はこういうメッセージを送った。
そして頭に血が上ったブルーエイジのメンバーは、問題の週刊誌を発売した出版社に向かった。
「ちょっとお!!この記事を書いたライターを出しなさいよー!!」
「編集長、出てきなさいよ!!」
ブルーエイジのメンバーが出版社に到着すると、他にも多くの三澤のファンも押しかけてきていて出版社が入るビルの前で押し問答になっていた。
三澤の一大事にファンが団結。
美琴が送ったメッセージを受けて、ファンが迅速に行動を起こした。
ブルーエイジのメンバーは勢いづいた。
「あちゃあ、大変だなあ」
打ち合わせで編集部に来ていた桐生は、ビルの中の編集部からこの様子を見下ろしていた。
「編集長、やっぱり思ってた通りになりましたね。それにしても三澤のファンってどうなっちゃってるんでしょうね?頭に血が上って押しかけてくるなんて。普通、そこまでやりますか?」
「桐生、お前なあ。どうするんだよ、こんな騒ぎになって」
「でも、その方が雑誌は売れますよね?こんな騒ぎになればテレビも黙ってないだろうし…あ、噂をすれば、ですよ」
桐生は窓の外を指差した。
誰が呼んだのか、警察も駆けつける事態となり、テレビ局の中継車もビルの前に到着していた。
「編集長、面白くなってきましたよ。まごころの朋はどう出るでしょうね?」
「お前とまごころの朋は犬猿の仲だからな。夜道には気をつけろよ」
「何をいまさら、ですよ。あ、また、名誉棄損で訴えられちゃうかなあ」
「おい、笑ってる場合じゃないだろう」
桐生は不敵な笑みを浮かべてにやにやしながらまだ窓の外を見下ろしていた。
テレビ局の中継車からはレポーターが降りてきて中継が始まったようだった。
さすがは影響力があり、多数のファンを持つ人気ミュージシャン。
ファンが集結し大騒ぎ。
フリーライターたる者、このくらい騒ぎになるような記事を書いて注目されなければならない。
桐生は騒ぎを見ながら、してやったりと笑いが止まらなかった。
結局、出版社に押しかけてきたファンやブルーエイジのメンバーは記事を書いたライターにも編集部の人間にも会えず、駆けつけた警察からは厳重注意され解散させられた。
これ以上、騒ぎを大きくするなら業務妨害で逮捕する。
そう言われて仕方なく退散した。
「ねえねえ、美琴。このまま黙って引き下がるの?」
「納得いかないわよねえ。ねえ、どうする?」
ブルーエイジのメンバーは口々に不平不満を漏らした。
「これって、拡散案件じゃない?」
「そうだわ!その手があるじゃない!」
「直接交渉が駄目なら、ネットで拡散してやりましょうよ!」
出版社に相手にされず三澤の記事のことで納得がいかない思いを一斉に投稿して、その不当さを訴えようとブルーエイジのメンバーは奮い立った。
「あら?あたしたち以外にも、俊介さまのことで投稿してる人がいるわね」
ブルーエイジのメンバーは一斉にスマホを手にしながら、SNSに自分たちのもの以外にも三澤の件にコメントしている投稿があるのに気づいた。
『我々の神、三澤俊介さまを侮辱する者は許さない!!』
『書いたライタ―、襲撃してやろうか』
『あの出版社の本は買うなよー!不買運動だ!!』
誰が立てたのか、巨大掲示板にも素早くこの問題をテーマにしたスレッドが立っていた。
対応が素早い。
ブルーエイジのメンバー以外にも、世の中には三澤を支持してくれる人間がたくさんいるのだ。
美琴たち、ブルーエイジのメンバーは強力な援軍を得た思いだった。
「ほら、ね。やっぱりみんな、おかしいと思ってるのよ」
「あら、ちょっと、これ見てよ」
メンバーの一人がある投稿の画面を他のメンバーに示した。
「なになに?”三澤さんのスキャンダル、大変ですね。抗議する気持ちもわかります。いい方法があるんですよね。お力添えさせて頂きたいです””…って、何かしらこれ?」
ハンドルネームはかもめ。
示したアドレスにメールをくれれば、三澤に関する記事への抗議に助太刀するというメッセージだった。
「詐欺かなんかじゃないの?」
「うーん、そうよねえ」
「でもさあ、味方かもよ?」
「あたしの捨てアカのアドレスからメッセージ送ってみようか?」
メンバーの一人、由紀子がそう言うと全員うなずいた。
かもめとは何者か?
いたずらか、からかいか、それとも詐欺か、いや、味方なのか?
不安と期待と、ブルーエイジのメンバーは返信が返ってくるのを待った。
「あ、来た来た!」
メッセージを送った由紀子のスマホの画面を皆でじっと見ていると、返信が返ってきた。
「ちょっと!返事が来たわよ!」
「ええ、何て言ってきたの?」
全員が食い入るように由紀子のスマホ画面を覗き込んだ。