本編の前にご案内です。
この小説のページの姉妹版「とまとの呟き」も毎日のように更新しています。
こちらは私の拙い日記、私の本音です。
下のバナーをクリックで「とまとの呟き」に飛べますよ。
よろしくお願いします。
また、小説は毎週日曜日に新作を公開する週刊の形式を取ります。
写真はイメージです。
「ウヒャヒャヒャヒャ!キテるなあ、やっぱ上物は違うよなあ」
「ねえん、翔さぁん、あたしにももっとちょうだい」
「おお、ほら、もっとやれよ。おい、美香、寝てんのかよ?」
翔はまゆの伝手で知り合ったモデルや女優の卵を部屋に上げ、違法な薬物に耽るようになっていた。
フィロス電機の事実上の会長の肩書があれば、どんな女も釣り放題。
まゆはアイドルとしての仕事が忙しくなったこともあり、翔の部屋に来ることは少なくなっていたが、翔はそれをいいことに毎日のように女性を取っ替え引っ替えし乱交に耽っていた。
「ねええ、翔さああん。高山香菜、知ってるでしょう?」
薬物を服用してとろんとした目付きになった女優の卵が翔にからんできた。
「んん?最近、女優デビューした奴か?」
「もう、あの女サイアク!!ね、翔さん、銀嶺会とも付き合いあるんでしょ?香菜のやつ、ブッ殺しちゃってよ」
「おいおい、穏やかじゃねえなあ」
「何言ってんのよおお。こんなところでキメてて、穏やかもクソもないでしょ」
女優の卵、茉莉はモデルから女優に転身中の高山香菜の悪口を続けた。
「もうサイアク!!物を隠されるなんて序の口よ。スタイリスト見習いの娘をイビるのは当たり前。ショーに一緒に出れば衣装を切られたり、彼氏を盗られた娘もいるのよ」
トップモデルで女優としても活動を始めた高山香菜。
翔もテレビで見ない日はなかったが、それほどまで他のモデルや女優に対するいじめや嫌がらせが酷いとは。
「わかったわかった。銀嶺会の奴らになんとかさせるわ」
「わああ!ホント?!」
銀嶺会といえば世に知れ渡った反社会的勢力だったが、実はフィロス電機の創業の頃から深い関係があり、今でもトラブルや面倒事の解決の時には必ず暗躍していた。
「おう、任せとけ。銀嶺会はフィロス電機のケツ持ちだからよ。俺が一言言えば、高山香菜なんて潰すのは訳ないさ」
翔は会長代理の座に就いてからというもの、養父で先代の二階堂会長以上に銀嶺会との結びつきを強めていた。
アンドロイドを開発し、市民権を獲得させ、アンドロイド優勢の社会を作り、アンドロイドを介して社会を支配するフィロス電機の狙いを見抜いて反発する市民団体を抑え込むためにも翔は銀嶺会を利用していた。
フィロス電機の後ろにいるのは最大与党の憲民党で、両者はアンドロイドが人間と同じ権利を獲得する社会を目指し、アンドロイドに人間を席巻させそれに乗じて国を支配することを最終的な目標としていた。
養父から銀嶺会、憲民党のことを聞かされ、後を託された翔は権力の中心にいる自分の立場を悟った。
冴えない老人だった自分が若くて有能な美男に生まれ変わり、国を支配する権力の中心にまで上り詰めた。
日常生活では芸能界の美しい女性を相手に欲しいままにし、違法な薬物を乱用しようが気に入らない人物を始末しようが、逮捕されることもなく罪に問われることもない。
好きなことを好きなようにしようと誰からも文句は言われない。
翔は有頂天だった。
人生楽勝。
翔はそんな風に自信たっぷりだった。
「ウヒャヒャヒャヒャ。お前らさあ、俺と結婚したいかよ?」
「ええ~ん、もちろんよおお」
「ねえ、翔さああん、あたしをお嫁さんにしてよおお」
「違うわよおお、翔さんはあたしと結婚するのお」
薬物で麻痺した女性たちは掴み合いを始めたが、翔はそれを横目で見ながら高級酒で薬物を流し込んで楽しんでいた。
「おいおい、お前ら、良い子のお友だちは仲良くしなきゃダメだろ。ウヒャヒャヒャヒャ!」
と、その時、翔は背後に気配を感じた。
「誰だ?また誰か来たのか?由美か?」
翔の部屋の合い鍵を持っている芸能界の女性は両手でも足りない数になっていて、翔も把握しきれなくなっていたが振り向いた翔は顔を引き攣らせた。
「お、お、おいおい。まゆじゃねえか。どうしたんだよ、急に」
なんと部屋に入ってきたのは、まゆだった。
「翔さん…何してるの?」
「何って、見りゃわかるだろ」
翔は悪びれもせず笑って誤魔化した。
部屋に複数の女性を引っ張り込み、テーブルの上には錠剤が大量に撒かれ酒の瓶も転がっている。
女性は下着姿、半裸に近い格好で目を見ればとろんとして明らかに薬物の影響が出ている。
まゆはショックを受けて言葉が出てこなかった。
「まゆ、お前もやるか?キメてみろよ。あ、お前はそういうのじゃなかったっけ?ウヒャヒャヒャ!」
まゆはスーパーコンピューター、スカイゾーンの端末態という部品の一部。
電子頭脳には麻薬は浸透しない。
翔はそれもわかっていたが、まゆをからかうようにそう言った。
「翔さん、ひどいわ…」
「何だよ、文句あんのかよ。お前みたいなガキ相手にやってられっかよ!」
複数の女性の前で翔は虚勢を張った。
翔はそう言うと、まゆの目から何か光るものが流れ落ちたのを見たような気もしたが、深くは考えなかった。
「文句あんなら出てけよ!ばーか!」
「…」
翔に汚く罵られ、まゆは黙って部屋を出て行ってしまった。
「あらあん、翔さん。いいの?今の、佐伯まゆでしょ?」
「可愛かったわねえ、さっすがアイドルねぇ」
「関係ねえよ。あいつが勝手に俺に熱を上げてるだけだからよ。ほら、もっとやれよ」
翔は誤魔化すように薬物の錠剤を口に含み、酒で流し込んだ。
翔に裏切られた。
片方だけのピアスを部屋の中で拾い、疑わしい部分はあったとはいえ現場を抑えられても開き直るとは。
まゆは翔のマンションを出て夜道を一人でとぼとぼと歩いていた。
確かに最近の翔は様子がおかしくなっていた。
フィロス電機の事実上の会長として地位も名誉も手に入れ、傲慢な物言いが目立つようになり、すっかり人が変わってしまったようだった。
そんな翔を元のような心優しい青年に戻すにはどうしたらよいのか?
まゆにはまだまだ人間の気持ちがわからなかった。
まゆの方からのアプローチだったが、翔はそれを快く受け入れ相思相愛になったはずだったのに、こんなに簡単に人間は裏切るのか。
いくら考えてもまゆには翔の気持ちがわからなかった。
自分は人間以上の思考を持つスーパーコンピューター。
その自分が考えてもわからないとは、一体どういうことなのか。
まゆはとぼとぼと歩き続けた。
「よ!カーノジョ!」
「俺らと遊ぼうぜ!」
まゆがとぼとぼと歩きながら緑川公園の前を通りかかると、男が数人、声をかけてきた。
「ねねね、どっか行こうぜ」
「可愛いなあ、ん?どっかで見たことあんな?」
如何にもチンピラといった感じの男たちを無視してまゆは通り過ぎようとしたが、前を通せんぼされた。
「どいて下さい」
「まあまあ、そう言うなよ。かわいこちゃん」
「ホント、可愛いな。誰だっけ…え、と?」
通せんぼされて進めなくなったまゆを、チンピラたちはじろじろ見た。
「あー!!わかった!!佐伯まゆじゃねーかよ!!」
チンピラの一人が大声を出すと、他の者も興奮して声をあげた。
「うひょー!!アイドルかよ!!」
「こりゃあ、いいや!楽しもうぜ!!ほら、こっちこいよ!!」
「やめてください!」
まゆは腕を掴まれて振り払ったが、しつこく絡まれた。
「なんだあ、てめえ!…うぎゃ!!」
酒の臭いをぷんぷんさせたチンピラは酔った勢いでまゆに殴りかかろうとしたが、逆にまゆに殴り返され首が飛び、体は何メートルも向こうに飛ばされ公園内の大木に叩きつけられた。
可憐なアイドルが大の男を殴り飛ばして何メートルも飛ばす。
しかも首がちぎれて転がっている。
どこからそんな腕力が湧いてくるというのか。
チンピラたちは悲鳴をあげて後退りした。
「ひひええええ!!ヤバくね?!」
「逃げようぜ!化けもんだ!」
仲間を助けようともせず、チンピラたちは一目散に逃げだした。
逃がすものか。
翔のことで気持ちが荒みささくれ立っていたまゆは、逃げるチンピラたちを追いかけた。
「うわああ!!やめて!!助けてー!!うぎゃー!!」
チンピラたちが全速力で走っても、アンドロイドの体を持つまゆは容易に追いつき次々とチンピラたちを捕まえた。
生きながら腕をちぎられ、足を逆向きに捩じられ、背骨を折られ、最後に首をちぎられて止めを刺されたチンピラたちの悲鳴と叫びが深夜の公園内に響いた。
「ひえ、助けて。助けてくれよ…このことは誰にも言わないからよ」
最後に一人残ったチンピラは、腰を抜かして失禁しガタガタ震えながら命乞いした。
「人間なんて…」
「はああ?」
まゆが何かぶつぶつ言っている。
何を言っているのかわからず、チンピラは怯えながら命乞いを続けたが、まゆは容赦なくその首を捩じって引き抜いた。