スーパースターはごきげんななめ 第六話~偽りの助け舟

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tomatoma-tomato77.hateblo.jp

写真はイメージです。

 

『返信、ありがとうございます。私たちはインターネットの問題解決のお手伝いをさせて頂いております』

 

由紀子が送ったメールにすぐに返信が返ってきた。

 

「あれ?これって、なんか聞いたことない?」

「何だったっけ?」

「あ!ネットポリスステーションじゃない?最後に書いてあるじゃない」

「そっか!それだわ!聞いたことあるある!」

 

メッセージを送ってきたのは、インターネットの世界では有名な特殊法人で政府公認の団体だった。

ネット上での揉め事や面倒事を通報すれば、問題解決まで懇切丁寧に対応してくれると評判の団体だった。

その団体が三澤の件で力を貸してくれると言う。

評判が良く、悪い噂も聞かない有名な団体からのメッセージは心強い。

何と言っても政府公認の特殊法人

出版社に全く相手にされなかったブルーエイジのメンバーは、渡りに船とばかりに飛びついた。

 

「ちょっと、強力な味方が現れたわね!」

「そうね。ネットポリスステーションなら信頼と実績があるもんね」

 

こちらから通報しなくても、ネットポリスステーションの方から助け舟を出してくれた。

ブルーエイジのメンバーはすっかりその気になり、美琴が代表してメッセージを送ってみた。

 

『私たちは三澤俊介公認ファンクラブ・ブルーエイジです。私は相田美琴と申します。ブルーエイジの代表を務めています』

 

美琴からのメッセージにもすぐに返信が返ってきた。

 

『メッセージ、ありがとうございます。さっそくですが、今回の件についての対処方法のアドバイスを差し上げたいと考えております。三澤俊介さんはとても影響力のある方ですから、事実無根の誹謗中傷には断固たる態度を取るべきです。つきましては、詳しいお話を伺いたいと思いますので、代表者の方にお会いできますでしょうか?』

 

「美琴、もちろんよね?」

「そうね!」

 

美琴はすぐに応じる旨の返事を返した。

 

『かしこまりました。それでは、当団体の住所ですが…』

 

一般的には公開されていないネットポリスステーションの所在地が送られてきて、ブルーエイジのメンバーは全く疑うことはなかった。

 

「わあ、美琴、頑張りましょうね!」

「もちろんよ!俊介さまのためですもの!」

 

政府公認の団体が助け舟を出してくれた。

ブルーエイジのメンバー全員、送られてきたメッセージを信じ込んでしまった。

 

「へえ、チョロいもんだなあ」

「バッカじゃねーか。三澤のこととなると何でも信じ込むんだな」

 

美琴たちにメッセージを送ってきたネットポリスステーションは、まごころの朋の関連団体だった。

政府公認の団体であることを隠れ蓑に様々なユーザーに接触しておびき寄せて騙し、最終的には身動きが取れないまでに追い詰め入信させる。

それ以前の段階でもまごころの朋の活動に加担させ、利用するだけ利用する。

政府そのものが非合法的なまごころの朋の活動を後押しして、関わってきた人間を利用していることは誰も気づかず、ブルーエイジ以外にも、団体、個人を問わずターゲットを定めて引きずり込んでいた。

言葉巧みに近づき、少しずつその気にさせ、洗脳して入信させる。

入信させれば多額の金銭を巻き上げたり、無償で働かせたり。

まごころの朋自体は危険な宗教団体と世間に認識されていたが、だからこそ隠れ蓑を用意して巧妙に活動を続けていた。

美琴たち、ブルーエイジのメンバーはそんな隠された裏側に全く気づいていなかった。

 

美琴は副代表の香織と共に接触してきたネットポリスステーションの事務局にやって来た。

 

「ご足労ありがとうございます。私は渉外窓口の責任者で深川と申します」

 

深川と名乗る男は美琴と香織に名刺を渡してくれた。

何も怪しいところはない。

政府公認の機関なのだから信用できる。

美琴と香織は疑うこともなくそう思い込んでしまった。

 

「さっそくですが、今回の三澤さんの件、大変でしたね」

「そうなんです!俊介さまを侮辱しています!」

「怪しい宗教団体と付き合いがあるなんて、そんなことあり得ません!」

 

深川は二人の言い分を一通り聞いてからこう答えた。

 

「では、私どもにお任せ下さい。記事を書いたライターはもちろん、出版社にも抗議して記事の削除を求め、損害賠償も求めます」

「ええ!本当ですか?!」

「はい。もちろんです。ただ、ちょっと…」

「ちょっと…何ですか?」

「費用がかかるのですが、よろしいでしょうか?」

 

深川は三澤に関する記事の削除、謝罪に持ち込むには料金がかかると提示してきた。

 

「それっていくらくらいですか?」

「そうですねえ、三澤さんは影響力のある方ですから。ざっと1000万くらいでしょうか」

「ええええーーーー!!そんなにかかるんですか?!」

「この団体って政府公認ですよね?!」

「はい。ですが、ガイドラインに照らして今回の件はそれなりの経費がかかります」

 

美琴と香織は卒倒しそうになった。

とても学生が払える金額ではない。

ブルーエイジの会員で出し合っても払えないだろう。

 

「それは…ちょっと」

「そうですよねえ」

 

深川は十分にわかったとでも言うような表情で続けた。

美琴と香織はじっと顔を見合わせた。

それでも、三澤のためになんとかしてやりたい。

それを見透かすように深川は続けた。

 

「そうですよね。皆さんはまだ学生だからそんな金額は負担できない。その、ブルーエイジという団体も社会人の会員さんがいても、一般的なお勤めの方がほとんどなんですよね?金銭的な負担は大きい。そこで、です。私どもからご提案があります」

「どんなことですか?」

 

美琴が尋ねると深川は資料のようなものを広げて言った。

 

「例えば特別に割引もできますし、或いはボランティア活動などをして頂いてそれを以て支払いに換算させていただくこともできます」

「はあ…」

 

美琴と香織は拍子抜けしてしまった。

それでも1000万という金額はとてもではないが払えない。

深川の言う通りボランティア活動をしたことで、支払ったことにしてもらえるならなんとかなりそうではないか。

美琴と香織はこの話をとりあえず持ち帰ることにした。

 

 

「ええ?!ボランティア活動?!」

「なんか変なのお」

「やっぱ、騙されてない?」

「でもさあ、政府も公認のトラブル解決屋さんなんでしょ?」

 

美琴は深川からもらってきた資料をコピーして軽音楽同好会のメンバーに配り、一通り説明したが賛否両論の反応が返ってきた。

 

「うーん、いいんだか悪いんだか、わかんないわねえ」

「でもさあ、ボランティア活動って大学の単位にならなかったっけ?」

 

ブルーエイジのメンバー、京子が言うと、他のメンバーもそれもそうだと相槌を打った。

 

「あ、そっか。そう言われてみればそうね」

「なかなかいい話なんじゃない?」

 

白薔薇女子大では社会貢献活動、いわゆるボランティア活動を単位認定していた。

活動内容によってどの講義の単位に充てるかは定められていたが、そこは政府公認の団体から請け負う活動。

おそらく問題なく単位に振り返ることができるだろう。

 

「ねえ、俊介さまのためになって、それで単位ももらえるならラッキーじゃない?」

「それもそうよねえ」

「美琴、その深川さんって人、良さそうな人だったんでしょ?」

 

ブルーエイジのメンバーは話に乗ってきた。

美琴は白薔薇女子大で軽音楽同好会の部員として活動するブルーエイジのメンバー以外にも、深川から提案されたボランティア活動のことを部室のパソコンからメールで送り、社会人や他の大学のブルーエイジのメンバーにも呼びかけた。

ブルーエイジとしては、深川の提案通りにボランティア活動に参加することに異議はない。

その場にいた多数が賛成するような形でボランティア活動に参加する件は決まってしまった。

なにせ大学の単位が取れる。

退屈でつまらない講義を聞かなくても、政府公認団体の指示で活動することで単位がもらえ、その上、三澤の件で出版社や記事を書いたライタ―に責任を取らせることができて更には社会貢献もできる。

いわば学生の特権のようなものではないか。

軽音楽同好会のメンバーは何の疑問も持っていなかったが、中には疑問を持ち同調しないメンバーもいた。

 

「でも、あたしはちょっとねえ…」

「嘘くさくない?1000万かかるものをタダにしてくれるって、おかしいわよ」

 

ボランティア活動に消極的なメンバーは、ネットポリスステーションからの申し出に否定的だった。

 

「あらあ、じゃあ、やらなくてもいいわよお」

「その代わり、もう軽音楽同好会には出入りしないでよね。ブルーエイジも辞めなさいよ」

 

ブルーエイジは二つに割れた。

三澤のスキャンダルを報じた週刊誌に抗議し、記事を取り下げさせるためなら何でもやるメンバーと、それはおかしいと考えるメンバーの間で二つに割れた。

しかし、賛同するメンバーの方が数が多く、否定的なメンバーは少数派だった。

 

「前からおかしいと思ってたのよね。どうしちゃったの?なんかの宗教みたいじゃない」

「あたしたちは、あたしたちのやり方で俊介さまを応援するわ」

 

ブルーエイジの方向性に否定的なメンバーは、そう言いながら部室を出て行った。

 

「おかしいのは、涼子たちの方よねえ」

「そうよ!私たちが俊介さまを支えなきゃ!」

 

残ったメンバーは更に団結して三澤のために働くのだと息巻いた。

 

 

「主任、例の女子大生から返事がきてましたよ」

「おお、どうだ?」

「もちろん、食いついてきましたよ。大学の単位がもらえて自分たちの要求も通る。学生にはこれ以上オイシイ話はないんじゃないですかねえ」

「それもそうだな。さあて、バカ女子大の学生ども、どう料理してやろうか」

「ただ、サークルは二つに割れたみたいッスね。いくら何でも、1000万かかるところをボランティア活動で肩代わりできる。どう考えてもおかしいですもんね」

「それでも話に乗って来るって、どういう思考回路なんでしょうね?ウヒャヒャヒャ!バカじゃねーのか!」

「まあ、いいだろう。ちょっと遊んでやろうか」

「主任、また若い女に手を付けるですかあ?」

「そう言うお前はどうなんだ?いつも俺の”おさがり”で楽しんでるだろ」

「へへ、やっぱわかりますか?」

「どいつもこいつも、ここが政府公認の団体だと謳ってるだけで駆け込んでくるからな。その政府が一番胡散臭いのな」

「ウヒャヒャヒャ!違いないですね!」

「それによお。そのブルーエイジとやらの代表者、三澤のこれなんだよ」

 

深川は笑いながら小指を立てた。

 

「え!マジっすか?!」

「そいつはお笑いだ!!ウヒャヒャヒャヒャヒャ!」

「かわいそうに!さんざんヤラレちゃってるんですね!ヒャハハハ!」

 

オペレーターたちは声をあげて大笑いした。

 

「マジも何も、女を騙してその気にさせるのは三澤俊介の得意技だろう。バカな女ばかりだから遊ばれてるとも思わないんだろうな」

「聞きましたよ。三澤は騙した女には必ずチャメルのバッグを買ってやってるって」

「そうそう。俺さ、チャメルのバッグを持ってる女を見かけたら、みんな、三澤の女に見えてくるようになっちゃったよ。ハハハハハ!」

「おいおい、お前ら。バカ話もほどほどにしろ。ほら、”お客さま”から着信だ」

「うっす。さあ、仕事仕事!」

 

ネットポリスステーションのオペレーターは、次々と着信する依頼のメールを流し読みしながらまだ笑っていた。