喫茶プリヤ 第二章 最終話~逮捕

本編の前にご案内です。

この小説のページの姉妹版「とまとの呟き」も毎日更新しています。

こちらは私の拙い日記、私の本音です。

下のバナーをクリックで「とまとの呟き」に飛べますよ。

よろしくお願いします。

tomatoma-tomato77.hateblo.jp

写真はイメージです。

 

フィロス電機が開発したアンドロイド、海子の開発発表会が開かれることになった。

海子は有事の際に戦闘能力が高い対人攻撃用アンドロイドとして開発されたが、普段は家庭で家事を手伝ったり、介護が必要になった家族の世話をしたり、子供の勉強を見たりと、家庭に置いておける商品として売り出されることになっていた。

平時においては穏やかな海子だが、有事の際には家族を守り国を守る力を発揮するもう一人の家族としての役割が期待されていた。

ぺリウシアグループの関連会社が販売している地下シェルターとのセット購入の予約受付も始まり、いざという時の備えとして期待が集まっていた。

 

「皆様、お忙しいところ、お集まり頂き誠にありがとうございます」

 

一流ホテルの一番広い宴会場を貸し切り、フィロス電機とぺリウシアグループの会社の株主や抽選で選ばれた一般ユーザーを集めて海子の開発発表会が始まり、司会のフリーアナウンサーが発表会の開会を宣言した。

 

「では、開発の遠山さんにお話を伺いましょう」

 

司会者に促されてフィロス電機の技術開発部の責任者が宴会場内に作られたステージに上がった。

 

「遠山さん、どんなところがセールスポイントですか?」

「ええ、人間並みの思考ができるところですね。家庭に入っても家族としてコミュニケーションが取れます。それでいて、敵対する者を瞬時に的確に判断し、ユーザーを守ります。一家に一台ですね。そうすることで家庭を守り、延いては国を守ることにも繋がるんです」

「わあ、素晴らしい発明ですね。では、ここからは海子のデモンストレーションを見せて頂きます」

 

司会のフリーアナウンサーが滞りなく進め、遠山を中心とする技術開発部の社員も何体かの海子を連れてステージ上に上がった。

 

「海子、皆さんにご挨拶だよ」

 

遠山が促すと海子は笑顔で株主やユーザーらに挨拶した。

 

「皆さん、こんばんは。私は海子です。皆さんにお会いできて嬉しいです。今日はよろしくお願いします」

「おお、すごいじゃないか。人間と見分けがつかないな」

「可愛いねえ。人間でもこんな美少女はなかなかいないぞ」

 

集まった株主やユーザーは人間と変わらない外見を持つ海子が、表情豊かに挨拶するのを見て感心することしきりだった。

更に何人かの株主はステージに上がり、思い思いに海子との交流を始めた。

 

「海子、触ってみてもいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「すごいなあ、受け答えが人間と変わらないじゃないか」

「海子、字は書けるかな?自分の名前を書いてごらん」

「はい、漢字でよろしいですか?」

「もちろんさ、気が利くねえ」

 

ステー上では和やかに海子と株主、ユーザーとの交流が続いた。

 

「海子、握手しようか」

「はい、光栄です」

 

一人の株主が海子と固く握手を交わした。

 

「ん?海子、もういいよ。手を放してもいいんだよ」

 

にこやかに握手に応じた海子だったが、なかなか手を放してくれない。

株主が手を放そうとしても海子は固く手を握ったままだった。

 

「おい、放せって言ってるだろ。おい!」

 

手を握られたままの株主は技術開発部の社員を呼びつけた。

 

「おーい!海子が手を放してくれないぞ!」

「それは失礼しました。海子、アームフリー!」

 

しかし、海子は技術開発部の社員の命令にも反応せず仁王立ちのまま株主の手を握り続けていた。

 

「海子!アームフリー!」

「おい、なんか様子がおかしいじゃないか…うわ!いてててて!!」

 

命令に反応しない海子は株主の手を握ったまま腕を捩じり上げた。

 

「いててて!痛いって!何すんだよ!」

「海子!アームフリー!!」

 

海子は命令を無視したまま更に強く捩じり上げた。

 

「やめろ!やめろったら!いててて…ウギャアアア!!」

 

海子はフルパワーで捩じっていた腕をそのまま千切り、激痛に悶絶している株主を力任せに蹴り倒した。

蹴られた株主は呻き声を漏らしながらステージの下に転げ落ちた。

 

「うわー!!」

「やめろ!やめろったら!!」

 

一体の海子だけではなく、ステージに上がっていた他の海子も次々に他の株主やユーザーの襲い始め、それを見ていた一般の招待客からは悲鳴があがった。

握手を求めて腕を千切られるだけではなく、顔を力いっぱいに殴られて首が飛ぶ者、蹴られて何メートルも飛ばされて壁に激突する者、暴走を始めた海子は容赦なく非力な人間たちを虫けらのように襲った。

 

「遠山さん!マズいですよ!!」

「海子をなんとか止められませんか?!」

 

会場にいた技術開発部の社員たちは、持ち込んでいたパソコンで海子を制御しようと試みたが、制御プログラムは全く作動せず海子はステージを下りて会場内の株主やユーザーを無差別に攻撃し始めた。

 

「助けてー!!」

「何なんだよ!!これはー!!」

「キャー!!」

 

逃げ回る人間たちを海子は追いかけ回し、捕まえては首を捻って息の根を止めたり、頭を殴って頭頂を割ったり、残酷な仕打ちで次々と殺していった。

出入り口には会場から逃げようとした招待客が殺到し将棋倒しになり、下敷きになった者は圧死した。

会場は海子に襲われた者の血が流れ、高級な床の絨毯は真っ赤に染まった。

 

「なんてことだ!なぜエラーが出た?!」

「会長、危険です。こちらへ!!」

 

会場内にいたフィロス電機の二階堂会長、安曇副社長はフィロス電機の担当社員の後について急いで会場を出た。

 

「美沙、こっちだ」

 

二階堂会長らの動きを見た京田も美沙を連れて会場を急いで後にしたが、会場の宴会場からは招待客たちの悲鳴が響いてきていた。

 

 

結局、電子頭脳のエラーで暴走した海子は保安省の治安部隊が出動して抑え込んだが、多数の招待客が犠牲となりフィロス電機とぺリウシアの責任問題に発展した。

 

「非常にまずいことになりましたな」

 

フィロス電機に京田が呼ばれ、二階堂会長、安曇副社長、当日は出席していなかった山本社長が集まり今後の対応について話し合いが持たれた。

 

「保安省の治安部隊が出動したとなれば、大事です。マスコミも騒ぎ始めていますし、何らかの形で責任を明らかにしなければなりませんな」

「海子の開発を手がけたのはフィロス電機ですが、その資金の大部分を提供していたのはぺリウシアです。世間はフィロス電機だけでなく双方に責任があると追及してくるでしょうな」

「確かに。しかし、業務提携とはいえ、フィロス電機とぺリウシアは対等というよりは、資金を出していたぺリウシアの方が主導権を握っていたと言えるでしょう」

「つまり、ぺリウシア側に管理責任はあるということですな」

「なるほど。海子のプロジェクトを主導していたのはぺリウシア側。そうなると、そのトップに責任を取って頂きましょうか」

 

山本社長、安曇副社長、二階堂会長はじっと京田の方を見た。

 

「京田さん、安心してください。あなたの責任ではなく、あなたの上司、ぺリウシアの最高責任者の責任です」

「と、言うことは、宝生に責任があると」

「ええ、ここに彼女を呼ばなかったのもそういうことです」

「女優あがりの最高責任者の独断、スタンドプレーのせいで海子のプロジェクトは失敗した。欠陥品とわかっていて資金を湯水のように注入し、電子頭脳のエラーも隠蔽し我々も欺いていた。こういう筋書きはどうですか?」

 

安曇副社長はそう言いながら薄笑いを浮かべた。

 

「治安部隊の出動で、この事件は保安省の管轄ですが買収は容易です。生贄を差し出せば餌に食いついてくるでしょう」

「元女優の経営者が真実を隠蔽し事件に発展した。これはマスコミも黙っていませんな」

「したたかに振る舞っていたつもりが、馬脚を現し多くの犠牲者を出した。実に悪質で罪深い。こういうシナリオでいきましょう。わっはっはっはっ!」

「あの女、前から小生意気で鼻持ちなりませんでしたからな。ちょっと綺麗だから調子に乗ったんでしょう。あれだけの騒ぎを起こしたからには、当分刑務所から出て来れんでしょう。当然の報いですよ」

「その通り。もう少し可愛げがあればいいものを。これでバカ女もおしまいですな。はっはっはっはっはっ!」

 

集まった四人は事件の責任を全て美沙にかぶせようと決め、高笑いした。

 

 

「はーい。どなた?」

 

海子の事件以来、美沙は身を隠すために秘密裏にマンションを借り潜伏していた。

住所を知っているのは京田だけのはずだが、来客を告げるインターホンが鳴った。

 

「保安省の捜査局です。鍵を開けてください」

 

インターホンのモニターにはスーツ姿の数人の私服警官が映し出されていた。

保安省の捜査局といえば警察よりも権限が強く、重大な事件を取り扱う部局。

それが直接訪ねてきたとなれば穏やかではない。

美沙には鍵を開けないという選択肢はなかった。

 

「宝生美沙こと倉橋ミサだな。海子による大量殺人の件で逮捕する」

「た、逮捕ですって?!あれは電子頭脳のエラーでしょう!フィロス電機の開発の問題じゃないの?!」

「話は捜査局で聞く…おい、手錠かけろ」

 

管理職らしい私服警官が命令すると、若い私服警官が美沙に手錠をかけた。

 

「ちょっと!違うでしょ!!あたしが何をしたって言うの?!」

「あなたは約束を破ったでしょう」

「はあ?約束って?何言ってんの?!」

 

抵抗しようとする美沙を脇から押さえ込んだ若い警官が、美沙にしか聞こえないような小声で言った。

 

「ちょっと!あたしは何も悪くないのよ!放しなさいよ!ちょっと、放しなさいってば!!あたしを誰だと思ってるのよ!!」

 

美沙は大声で騒いだが、両脇を警官に挟まれ連行されて行った。