喫茶プリヤ 第二章 十話~制裁

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tomatoma-tomato77.hateblo.jp

写真はイメージです。

 

倉橋の隠し子とその母親を含む、幼児数名とその母親たちが何者かに惨殺された。

悲鳴を聞いた近所の住人の通報で警察が駆け付けた時、部屋にいた全員が傷ましい姿で発見された。

 

「係長、酷いですね」

「そうだなあ。幼気な子供をこんな目に遭わせるなんて」

 

凄惨な現場は見慣れているはずの警察官も、あまりの惨たらしさに言葉が出てこなかった。

 

「それにしても、またですよね」

「ん?何がだ?」

「殺され方ですよ。首を引きちぎられたり、手足をもぎ取られたり。この前の竜嶺会のチンピラの事件と似てませんか?」

「なるほど、それもそうだな」

 

未だに犯人は捕まっていなかったが、山間部の国道で暴力団の竜嶺会の構成員が惨殺体で発見される事件が起こっていた。

数人いた構成員は全員が首や手足をちぎられていたり、頭部が陥没していたり、胴体を貫通する傷を負ったりして殺されていた。

動物の仕業かとも言われてはいたが、傷の状況から考えにくいと結論が出ていた。

周辺を捜索しても凶器は発見されず、目撃者もなく、捜査は早くも暗礁に乗り上げていた。

 

「こんな街の中で猪や熊が出る訳がないよな。とすれば、やはり人間の仕業か」

「しかし、凶器もなくこんなことができますかね?」

「うーん」

 

警察官たちは難事件に頭を抱えた。

 

その頃、海外出張から帰ってきた倉橋は自宅でテレビを見ながら愕然としていた。

 

「あら、どうしたの?あなた」

「いや、何でもない…」

 

朝、会社に行く前、朝食を取りながらワイドショーを見ていた倉橋だったが、友幸と美子が住むマンションの様子が映し出されるのを見ながら手が止まってしまっていた。

 

「何かあったの?」

「殺人事件らしい…」

「へえ、そうなの。殺されたのは誰?どんな人?」

 

美沙はわかっていて、わざとに尋ねた。

友幸と美子、倉橋の隠し子とその母親を殺そうと京田に入れ知恵され、それを承知したのは美沙自身だった。

 

「ちょっと出かけてくる」

「え?会社ならまだ早いんじゃない?」

「いや、用事を思い出した」

「あら、そう。気をつけてね」

 

倉橋の顔色が青ざめているのを美沙は見逃さなかった。

倉橋はそそくさと身支度を整えると、慌てたように玄関を出て行った。

 

「いってらっしゃい」

 

美沙の言葉に返事もせず、倉橋は出かけて行った。

 

「もしもし、京田さん。やっぱり現場に向かったみたいね」

 

倉橋が慌てることも織り込み済みで、美沙は倉橋が家を出たと京田に連絡した。

 

「お任せください、奥様。あとは、計画通りです」

「そうね。みっちり懲らしめてあげましょうね。うふふ」

 

友幸と美子が殺された自宅マンションに向かった倉橋は、タクシーで現場まで乗りつけた。

 

「ここからは立ち入り禁止です」

「え、でも、あのう…」

 

黄色いバリケードテープで規制線が張られ、警察官が行ったり来たりしている現場マンションには当然立ち入ることはできなかった。

秘密の存在とはいえ、妻子が殺された。

本来ならば被害者の家族なのだが、隠し子とその母親ではおおっぴらに申し出ることは憚られた。

名うての企業グループ、ぺリウシアの総帥に隠し子いたなど知られる訳にはいかなかった。

 

「総帥、やはり、こちらでしたか」

「京田。どうしてここに」

「朝のテレビで見ましたよ。友幸ちゃんと美子さんが巻き込まれたみたいですね」

 

京田に言葉をかけられ、倉橋はがっくりと項垂れた。

 

「私が日本にいながら、友幸ちゃんと美子さんをお守りすることができませんでした」

「いや、京田のせいじゃない」

「総帥、おそらく、美子さんのご実家に連絡がいっているでしょうね。そちらの方に任せて様子を見ませんか?会社に出ないのも不自然ですし」

「それもそうだな」

「車、向こうに停めてありますから。どうぞ」

 

京田は第一秘書らしく気が利く。

倉橋は何も疑わずついて行ったが、社用車が停めてある場所につくと見知らぬ男が2人社用車に乗っていた。

 

「京田、何なんだ?この人たちは?」

「倉橋総帥、いつもお世話になってますよ。竜嶺会の者です」

「はあ?」

「まあ、乗って下さいよ。話はそれからです」

「おい!何するんだよ!」

 

倉橋は怪訝そうに2人を見たが、車に無理やり押し込まれた。

 

「おい!お前ら、何なんだ!京田、どうなってるんだ?!」

「総帥、あなたには消えてもらいます」

「なんだと!!」

「ぺリウシアグループの莫大な資産を欲しがってる人がいるんですよ。奥様は総帥の不誠実さに激怒なさっています」

「美沙が、美沙が何なんだ?!」

「総帥、友幸ちゃんと美子さんのこと、美沙さんにお教えしたら激怒していましたよ。それで、刺客を放ったってことですよ」

 

後部座席で左右を固められ、ロープで縛られ、身動きが取れなくなっている倉橋に京田は事件の真相を伝えた。

 

「美沙が犯人か?!」

「いえ、違いますね。ほら、うちとも取引のあるフィロス電機。そこの新製品テストも兼ねて実行させたんですよ」

「新製品って、何だそれは?!」

「何て言ったかなあ、フィロス電機が開発したアンドロイドですよ。戦闘能力が高いみたいで、そのテストですね」

「アンドロイドだと!」

「ええ、戦闘能力が高いアンドロイドで、武器として売り出して海外相手に商売するんでしょうね…あ、つきましたよ」

 

京田は事件の真相について、信じられないようなことを口にした。

友幸と美子を襲ったのは人間ではなくアンドロイド。

ぺリウシアグループと業務提携をしているフィロス電機が開発したアンドロイドが真犯人だとは。

倉橋は信じられなかった。

 

「信じるか信じないかは、総帥次第ですよ」

 

倉橋が信じられないような話を聞かされている間に、車は目的地に到着した。

 

「ほらほら、総帥。ちゃんと歩いてくださいよ」

 

倉橋が連れてこられたのは、港のはずれにある倉庫だった。

 

「あらあ、大輔さん。来てくれたのね」

「美沙?!」

「大輔さん、あたしを騙してたのね。絶対に許さないわよ」

 

倉庫で待ち構えていた美沙は、友幸と美子の存在を隠していた倉橋を許せなかった。

 

「でも、籍が入ってるのはあたしなのよね。あなたがいなくなれば、ぺリウシアの莫大な資産はあたしのもの。あなたにぺリウシアはもう任せておけないわね」

「美沙、お前、俺の財産が目当てなのか?」

「そんなの当たり前じゃない。他に何があるの?あなたが隠し子を黙っていたりするからこんなことになるのよ」

 

美沙は倉橋を囲んでいる竜嶺会の構成員に、倉橋を縛り上げているロープを解くよう命じた。

 

「大輔さん、ショータイムの始まりよ。逃げ切れるかしら」

 

美沙が合図すると、倉庫内の荷物の陰から少女が出てきた。

少女は16,7歳、顔立ちは美しかったが冷たく無表情だった。

 

「この娘、海子っていうのよ。アンドロイドなの。友幸ちゃんと美子さんを殺ったのも海子なのよ。あなたが海子から逃げ切れれば生き延びられるけど、無理でしょうね。海子、やりなさい」

 

命令された海子は猛然と駆け寄ってきて倉橋の頬を殴りつけた。

 

「うわー!!」

 

殴られた倉橋は何メートルも飛ばされ、倉庫内の荷物に叩きつけられた。

 

「ゲフッ」

 

口の中が切れた倉橋は血を吐き出しながら立ち上がった。

なんとか倉庫の外に逃げ出せれば周りに助けを呼べる。

倉橋はそう考えて出口に向かおうとしたが、海子はその動きを読み取っていた。

 

「うわっ!!いてててて!!」

 

アッという間に追いつかれた倉橋はサンドバッグのように殴られ、蹴られ、嬲られた。

海子は美少女の外見からは信じられないような力で殴ってきた。

このままでは撲殺される。

逃げようにも海子の動きの方が速く太刀打ちできない。

 

「海子、もっと遊んであげなさい!ヒャハハハハハハ!」

 

海子に命令する美沙は倉橋が嬲られるのを楽しんでさえいるようだった。

倉橋は殴られ、蹴られながら考えた。

美沙はわざとに手加減させて自分に苦痛と恐怖を与え、それを楽しんでいるのだ。

海子の力よりも美沙の冷淡な心の方が、倉橋は恐ろしかった。

 

「海子、そろそろ”お開き”にしましょうか?!ヒャッハッハッハッ!!」

 

倉橋が嬲られる様子を見ながら満足げに笑っていた美沙だったが、止めを刺すよう海子に命令した。

それを聞いた海子は拳を固めて倉橋の腹を殴った。

 

「グフッ」

 

殴られた倉橋は何メートルも飛ばされて、倉庫の壁に打ち付けられた。

ここからが本領発揮。

海子はそう考えているかのように笑みを浮かべながら倉橋の腕を掴んだ。

 

「うわ!!うわー---!!ギャアアアー---!!」

 

海子は倉橋の腕を掴むや否やそのまま引っ張って引きちぎった。

 

「大輔さん、苦しい?痛いでしょうね、苦しいでしょうね」

 

大量に出血してのたうちまわっている倉橋を見ながら、美沙は冷たく笑っていた。

倉庫の床は血まみれになったが、海子は更に倉橋の脚を引っ張ってむしり取った。

まるで虫の羽をむしるように、海子は倉橋を痛めつけた。

すぐに簡単には止めを刺さない。

十分すぎるほど痛めつけて苦しみを与える。

倉橋はアンドロイドの海子よりも美沙の方が恐ろしかった。

 

「そろそろショーもおしまいね。大輔さん、最後に何か言いたいことはある?」

「美沙…お前、いつからこんな恐ろしい…恐ろしい奴になったんだ…」

「別にぃ。悪いのはそっちの方でしょ。ヒャハハハハハハ」

 

美沙が最後に合図すると、海子は無表情のまま倉橋の首を引きちぎった。