喫茶プリヤ 第二章 九話~誕生日の惨劇

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tomatoma-tomato77.hateblo.jp

写真はイメージです。

 

豪勢な新婚旅行から帰って来ると、美沙と倉橋との生活はすっかり落ち着き、美沙は毎日幸せを噛みしめていた。

 

「いってらっしゃい。今日は遅くなるんでしょう」

「うん、取引先と会食だからな」

 

美沙は自分より先に仕事に向かう倉橋に鞄を渡しながら、その日の予定を確かめた。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

「はあい」

 

倉橋はその日も特に変わった様子はなく出かけて行った。

午後から撮影の仕事が入っている美沙は次の主演作の台本を読むことにした。

家事は通いでやって来る家政婦がやってくれる。

家政婦が来るまでの間、美沙はお気に入りの曲を聴きながら台本を読み始めた。

女優としてもノリに乗っている美沙は、次回作もヒット間違いなしと自信満々だった。

美沙が台本を読み始めて30分ほどすると家政婦がやって来た。

 

「志茂さん、今日もよろしくね」

「はい、奥様。そういえば、京田さんからこんなものを預かってきました」

「あら、何かしら?」

 

志茂が掃除を始めると、美沙は渡された大きな封筒の中身を確かめた。

京田は倉橋の第一秘書。

何か仕事に関係があることだろうか。

美沙は封筒を開けて中を見た。

 

「え?何これ?」

 

封筒の中には何枚も写真が入っていた。

倉橋の写真、若い女性の写真、幼い子供の写真もあった。

中には倉橋が幼い子供を抱き、若い女性と連れ立って歩いているところや、遊園地なのか三人が仲睦まじく乗り物に乗ろうとしているところなど、親密な感じのする写真が何枚も入っていた。

美沙がよく見ると、封筒の中には便箋も入っていた。

それを広げて見ると、こう書かれていた。

 

『倉橋総帥の”ご家族”です。総帥には5年前に生まれた男の子がいます。その母親の女性とも未だに行き来しています。毎月、養育費は払っていますし、総帥は子供を認知しています。あなたは裏切られてきたのです』

 

何ということか。

倉橋には隠し子だけではなく、隠し妻までがいた。

倉橋は今まで自分を欺いてきたのか。

美沙は怒りがこみあげてきた。

子供を認知しているということは、倉橋に万が一のことがあればその子にも相続する権利がある。

便箋の最後には倉橋の第一秘書の京田の名前が書かれていた。

子供と女性のことでもっと知りたければ、来週、ぺリウシアの本社、総帥室まで来るように。

そう書かれていた。

来週は倉橋は海外出張で留守にする。

そのタイミングで隠されていた事実を伝えようというのか。

秘書も秘書でいったい何を考えているのか。

美沙は家政婦が持ってきた封筒を自分のクローゼットの中に隠した。

 

「奥様、お忙しいところ、恐縮です」

「京田さん、これはどういうこと?!」

 

一週間後、倉橋は海外出張に出かけ、美沙は受け取った写真をそのまま持ち、指定された通りぺリウシア本社の総帥室にやって来た。

 

「メッセージのままですよ。総帥には別の家族がいます」

「じゃあ、なぜ、あたしと結婚したのよ」

「それは総帥にしかわかりません。つまり、この子の母親ではなく宝生美沙と結婚したかったのではないですか」

「あたしを騙していたのね」

「それも、どうなのかはわかりませんが。奥様、相当お怒りのようですね」

 

京田は封筒を握りしめて震えている美沙を冷静に見ていた。

 

「これが怒らずにいられる?!子供がいるのよ。しかも認知してるなんて」

「そうですね。総帥に何かあれば、この子にも相続権が発生します」

 

倉橋の莫大な遺産は自分だけのもの。

他の誰かには渡したくない。

子供がいること自体より、遺産の取り分のことで美沙は怒りを感じていた。

 

「この子が生きている限り相続する権利はあります。どうしますか?」

「どうするかって?」

「例えば、消えてもらうとか」

 

京田はいつもそうだったが、今日はいつにも増して冷淡だった。

 

「消えてもらう…」

「ええ、そうです」

「どうやって?」

「それは、私にお任せください」

 

京田は普段からクールな感じだが仕事はとにかくできる。

今までも非合法すれすれのところで倉橋を支えてきたのが京田。

美沙は京田に任せてみることにした。

 

 

「ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバスデートゥ―ユー、ハッピーバスデー、ディア友幸ちゃーん、ハッピーバスデートゥーユー」

 

倉橋の実子、小山友幸は5歳の誕生日を迎えた。

母親と友達、友達の母親が友幸の家に集まり、誕生日を祝っていた。

 

「友幸、よかったわね」

「うん!ママ」

「友幸ちゃん、これ」

 

友幸がバースデーケーキのろうそくの火を吹き消すと、集まった友達がそれぞれプレゼントを手渡した。

 

「ありがとう!」

 

父親とは離れて暮らしていても、友幸は元気のいい明るい子に育ってくれた。

母親の美子はこの数年間のことを思い返していた。

美子が思い出に浸っていると、来客を知らせるインターホンが鳴った。

 

「あら、頼んでいたピザじゃない?」

 

美子は立ち上がってインターホンのモニターを確かめた。

 

「クローバーピザでございます」

 

美子が対応するとモニターには16、7歳の少女が写っていた。

女の子が配達にくるのは珍しい。

美子はそう思いながらも、玄関ドアのロックを解除した。

 

「ご苦労さま」

 

少女がピザの箱を持って現れた。

箱を受け取った美子が金を払おうとして財布の中を見た一瞬、視線を下に落とした隙を少女は見逃していなかった。

 

「痛っ!!何するのよ!!」

 

少女は美子にいきなり殴りかかり、美子は悲鳴をあげた。

 

「助けて!!」

 

美子は助けを求めてリビングに戻ってきた。

何事か。

友幸のバースデーパーティーに集まっていた子供たち、その母親たちは血相を変えた美子を見て身構えた。

美沙の後について、ピザの配達に来たはずの少女がずかずかとリビングに押し入ってきた。

 

「ちょっと!!何なの!!」

 

何を言われても少女は無言で無表情のままで、それを見た子供たちは恐がって泣き出した。

 

「わーん!!」

「うわあーん!!恐いよう!!」

 

少女は警察に連絡しようとした母親を見逃さなかった。

スマホを出したその母親が真っ先に殴られ、首が飛んで血しぶきが上がると子供たちは恐怖で泣き喚き、ちぎれた首が床に転がり大量の血が床に広がった。

殴られただけで首が飛んでしまうとは。

通報しようとした母親の次に、美子が首を掴まれそのまま引きちぎられた。

美子は即死。

その次には友幸が顔面を殴られたが、少女の拳は友幸の後頭部まで貫通するほどだった。

部屋の中では子供たちが泣き叫び、母親たちは恐怖の中でも泣き叫ぶ子供たちを守ろうと必死に抱き締めた。

それでも、少女は無表情のまま子供たちを母親から引き離した。

母親が力を込めて抱き締めていても、怪力の少女はもぎ取るように子供を母親から引き離し、首を掴んで引きちぎっていった。

母親たちは手足をもぎ取られたり、頭頂部を殴られて頭蓋骨を砕かれたり、手当たり次第に襲われ悲鳴をあげる間もなく殺害されていった。

子供の首を引きちぎり、母親は手足をもぎ取ったり、背骨を折って体を三つ折りにしたり。

人間とは思えない怪力で少女は無表情のまま、一言も発することなく部屋にいた全員を手にかけていった。

頭を殴られた子供は頭蓋骨が砕け、少女は飛び出して落ちた眼球を気にするでもなく踏みつけていた。

悲鳴と泣き声が部屋中に響き、見る見るうちに室内は血の海と化した。

 

「ちょっと…何なのよ」

 

最後に残った母親は死体になってしまった子供の体を抱き締めながら後退りした。

少女は人ではない。

その残虐さと冷たい表情、そして考えられない怪力。

虫の羽を毟るように人間の手足、首をちぎり、殴って首を飛ばし、頭蓋骨を割り、背骨を折る。

一体、何者なのか。

ピザを届けにきたように見せかけて襲撃してきた少女は何者で、目的は何か。

 

「ギャアッ!!」

 

最後に残った母親も頭頂をかち割られて息絶えた。