喫茶プリヤ 第三章 六話~初ライブの出会い

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ここから本編です。

イラストはイメージです。

 

「松野さん!彷徨えるラブレターは盗作だという情報もありますが、実際はどうなんですか?!」

「自作の曲だと発表していますが、ゴーストライターがいたんですよね!!」

 

人気のシンガーソングライター、松野豊はツアーで訪れている地方にも押しかけてきた芸能レポーターに囲まれ、質問攻めにされていた。

松野は発表する曲は全て自作のものとして発表していたが、ゴーストライターをさせられていた女性がこのことを告発。

松野はゴーストライターに楽曲を作らせていただけではなく、他の誰かが作った曲を自作の曲として発表する、盗作行為を働いていたこともそのゴーストライターに暴露されワイドショーの格好の標的になっていた。

 

「加原くん、これでいいのかな?」

「はい。総帥、ありがとうございます」

 

ワイドショーで松野の件が取り上げられる。

事前に情報を得ていた和也はぺリウシアの総帥室で京田と共にテレビを見ていた。

 

「彷徨えるラブレターは君の曲なんだろう?」

「ええ、発表されたものは少しアレンジされてましたけど、あれは僕が作ったものです」

 

松野の盗作疑惑が明らかになったのもぺリウシアの力で追及したからであり、和也は巨大企業グループの力のすごさを改めて感じた。

 

「これで松野は終わりだな。調べてみたら、他にもまだヤバいことに手を出しているみたいだし」

「ヤバいこと、というと?」

「そうだなあ、枚挙に遑がないが女関係にだらしなかったり、反社との付き合いもあるようだな」

「そうなんですか」

 

松野は盗作の他にも反社会的なことに手を出していて、ぺリウシアでもそれは押さえていた。

 

「総帥、何から何までありがとうございます」

「ああ、我がグループが誇る大スター、加原和也のためだからな。これからも困ったことがあれば何でも言ってくれたまえ。そんなことよりも、もうすぐツアーじゃないか」

「はい、おかげさまで」

 

和也は初のソロツアーのスタートを一ケ月後に控えていた。

ぺリウシアの協賛で行われ、潤沢な資金をバックに全国くまなく回ることになっていた。

チケットはほとんどの会場で完売。

デビュー間もないが、和也は新進気鋭の若手ミュージシャンとして注目を集め始めていた。

あれよあれよという間に売れっ子になった和也。

テレビの歌番組に出たり、今ではネット上でも話題のアーティストとして注目されていた。

ぺリウシアはテレビ局、ラジオ局、ネット媒体の管理会社、レコード会社、出版社を傘下のグループ企業に持ち、影響力は強大で和也を前面に押し出してPRしてくれていた。

自分がそんなに推してもらえるとは、和也自身も神がかっていると感じていた。

その巨大なグループ企業のトップが自分をバックアップしてくれている。

いつから自分はこんなに強運になったのだろう。

特に行いを改めた訳でもないのに運が向いてきた。

和也は恐いくらいだったが、このチャンスを生かして夢に見ていたミュージシャンとして歩き出そうと決心していた。

 

「ツアーの初日は私もステージを見せてもらう。頑張りなさい」

「はい!ありがとうございます!」

 

和也は期待に応えようとリハーサルに励むことにした。

 

 

「みんなー!今日はありがとうー!!」

 

一ケ月後、初のツアーをスタートさせた和也は、ライブの終わりに会場いっぱいに駆け付けたファンの声援に応えて腕をちぎれんばかりに振りながら舞台袖に帰ってきた。

 

「和也、よくやった!」

「頑張ったな!すごく盛り上がったじゃないか!」

 

舞台の袖で控えていたスタッフが労ってくれると、和也は感極まって涙が出てきた。

ホールではライブの終了を告げるアナウンスが流れていたが、詰めかけたファンはまだ盛んにアンコールを期待して大合唱し、その声はステージの袖に引っ込んだ和也にも届いていた。

夢だった大きなホールでライブを行い、ファンが和也の名前を大合唱しながら呼び続けてくれていた。

できるものなら期待にもっと応えたかったが、ホールの使用時間終了が迫ってきていた。

 

「加原くん、すごくいいライブだったよ」

「あ!!総帥!!お疲れさまです!!」

 

観客席にいた京田総帥が現れると、スタッフ一同、深々と頭を下げた。

 

「みんな、加原くんとちょっと話したいことがあるんだ。はずしてくれるかな」

 

京田がそう言うと、スタッフは和也から離れ撤収作業にとりかかった。

 

「加原くん、先に言うのを忘れていた。君の楽屋係の女性、紹介しておきたいんだ」

「え、八代さんですか?」

「うん。ええ、と。八代さんはどこに行ったのかな…林くーん、八代さんは?」

 

京田が現場の責任者に声をかけると、開演前に楽屋で飲み物や弁当を用意したり、細かな作業を手伝っていた女性スタッフが連れてこられた。

 

「八代さん、今日はお疲れさま。よくやってくれたね」

「はい、総帥も今日はありがとうございました」

 

和也は初ライブでどのスタッフとも初対面であり、まだ誰が誰なのか名前と顔が一致していなかったが、八代という女性スタッフは楽屋で仕事をしてくれたこともあり顔を覚えていた。

 

「加原くん、八代さんはね、あの松野豊のゴーストライターをしていたんだ」

「ええ!!」

 

京田はさらりと言ったが、和也はかなり驚いた。

自分の曲を盗作した松野のゴーストライターをしていた人間が、目の前で自分のために働いていたとは。

 

「松野の盗作、ゴーストライター疑惑が白日の下に晒されたことで、八代さんも困っていたんだよ。話を聞けば、当座の生活に困っていてね。何でも、妹さんが養護施設にいて何かとお金がかかるそうなんだ。それならば、君のスタッフになってもらおうかと思ってね」

「そうなんですか…」

 

紹介された八代が自分の曲を盗作した松野豊のゴーストライターをしていたとなれば、あまり良い気持ちはしなかったが、世話になっている京田の言うことなら余程のことがない限り従わなければならない。

和也は納得したように落ち着いてみせた。

 

「これから、あちこちツアーだろう。八代さんは服飾の専門学校を出てるそうだから、君の衣装担当にもなってもらおうと思うんだ」

「はい、わかりました」

「まあ、松野のゴーストライターをしていたとなれば、君も気分が良くないかもしれないが、そこは気持ちを切り替えてだね」

「もちろんです!」

「それに、ゴーストライターをしていたくらいだから、八代さんには曲作りの才能があると思うんだよ。いろいろ相談するといい」

「わかりました…八代さん、よろしくお願いします」

 

和也は改めて京田の傍らに立っている八代に軽く頭を下げた。

 

「まあ、加原さん。こちらこそよろしくお願いします。私、ゴーストライターをしてたなんて恥ずかしいです。でも、妹は大学進学を希望していてお金がかかってしまうので…」

 

八代もいろいろと訳ありらしい。

和也も貧しい家庭に育ち、都会に出てきて建設作業員をしながらミュージシャンになる夢を追いかけていた。

和也は八代の気持ちがわかるような気がした。

 

「よし、決まりだな。八代さん、次の移動日は三日後だ。明日、明後日と先輩スタイリストに付いて勉強しておくといい」

 

京田は有名スタイリストを紹介してやると八代に勧めた。

 

「さて、これから打ち上げだな。初日から大成功じゃないか。未来の大スター、加原和也の門出だ。私が店を予約しておいたから、パーッと盛り上がろう」

「ありがとうございます、総帥。何から何まで、本当にありがとうございます」

 

巨大企業グループの総帥がこんなにも自分に目をかけてくれている。

和也は京田のことを信頼しきっていた。