喫茶プリヤ 第三章 十一話~厄介払い

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ここから本編です。

写真はイメージです。

 

沢村から奪い取ったアマチュアミュージシャンの曲を、和也は自作のものとして発表したが、やはり目論見通りヒットして和也の評価はますます高まった。

盗作などチョロいもの。

そう得意になっている和也を、事情を知らないマスコミは持て囃していた。

デビューしてすぐに開催した全国ツアーは、何ヵ所も追加公演が加えられ、どの会場もチケットはソールドアウト。

それ以外にも、和也がライブのMCで客席のファンに語りかける内容も話題を集めていた。

 

「お、こっちの番組でも話題だな」

 

和也は朝食をとりながらテレビのワイドショーにチャンネルを合わせた。

ワイドショーでは和也がライブ中のMCでファンに語りかける言葉が取り上げられていた。

 

『みんな、聞いて欲しいことがあるんだ。今、議会ではアンドロイド人権法というとても大事な法律が審議されているんだ。これは本当に大事な法律だから、国民投票も行われる。そこでだ、明るい未来のためにアンドロイドとの共存について考えてみてほしい…僕らの未来は僕らが作るんだ』

 

和也がこのように客席に呼びかける映像がテレビの画面に映し出され、アンドロイド人権法に賛成の立場のワイドショーのコメンテーターは、この法案が成立することで未来は薔薇色だと絶賛し、尚且つ和也に対しても好意的な意見を述べていた。

それもそのはず。

ほとんどのテレビ局がぺリウシアからの出資を受けてその管理下にあり、アンドロイド人権法の成立に向かって計画を推し進める政府と癒着していた。

アンドロイド人権法に対する賛成票を投じるよう働きかけるキャンペーンは大々的に展開され、各種世論調査でもこれに賛成票を投じると回答する国民が過半数に迫る勢いだった。

和也はこのキャンペーンに加担することで、推進派の中心人物である花村代議士やアンドロイド開発に力を入れるフィロス電機からも様々な便宜を図ってもらっていた。

 

「あおい、欲しいものがあったら何でも言えよ。買ってやるからさ」

「あたしは、別に欲しいものなんか」

「いいから、遠慮するなよ。ブランドもののバッグでも、宝石でも、何でも買ってやるよ」

 

多額の現金をあちこちから受け取るようになった和也の生活は日に日に派手になっていた。

 

「さーてと、仕事に行ってくるわ」

「今日はレコーディングだったわよね」

「そうそう、メシはいらないからな」

 

ワイドショーを見て機嫌のいい和也は口笛を吹きながら悠々と出かけて行った。

食事はいらない。

和也はまたどこかで女と遊んで帰ってくるに違いない。

それでも、あおいは和也を待つことにした。

 

 

「ただいまー」

 

その日の夜、深夜に和也は上機嫌で帰宅した。

 

「おかえりなさい」

「おう、まだ起きてたのか。寝てていいって言ったろ」

「和也、聞いてほしいことがあるの」

「何だよ、改まっちゃって」

「今日、病院に行ってきたんだけど」

「何だよ、どこか具合でも悪いのかよ」

「あたしね、子供ができたの」

「へ?」

 

和也は冷蔵庫から出したミネラルウォーターを飲む手を止めた。

 

「あたしと和也の子よ」

「おい、ちょっと待てよ。俺の子だって証拠でもあんのかよ」

「証拠って、あたしと和也はずっと一緒にいるじゃない」

「やめてくれよ。俺、ガキなんていらないぞ…お前さあ、俺と結婚したいのかよ?冗談じゃねえや、俺のイメージってものがあるだろ。今、結婚なんてできないからな」

「それでもいい。あたし、一人で生んで一人で育てるから」

「金だけ出せってことかよ」

「お金もいらない!」

「とか何とか言って、ガキが大きくなったら集ってきやがるつもりだな」

「ひどい!そんなこと言ってないじゃない!」

「どうでもいいから堕ろせ」

 

和也はリビングの隣の部屋に置いてある金庫のダイヤルを回し始めた。

 

「何やってんの?」

「ほら、この金で堕ろしてこいよ」

 

和也は金庫の中から札束を出してあおいに渡した。

 

「それか、これ持って消えろ。余計なことは喋るなよ」

「何、これ?馬鹿にしないでよ!」

 

あおいは札束を押し返すとそのまま部屋を飛び出していった。

それ以来、仕事の現場にもあおいは姿を見せなくなってしまった。

芸能ニュースを見ても和也に隠し子がいるといったような話題はなく、あおいは口外していないようだったが、あおいが子供のことを公にするかも知れないと思うと和也は落ち着かなかった。

しかし、あおいのことを気にしつつも、和也は仕事に追われる日々だった。

そんなある夜、和也は京田総帥に伴われて高級料亭にやって来た

 

「わあ、すごいっスねえ。政治家の先生って、ホントにこういうところでメシ食ってるんスねえ」

 

高級料亭では座敷で花村代議士が先に来ていて和也と京田を待っていた。

あおいのことは相変わらず気になっていたが、これも仕事のうち。

和也は興味津々でドラマで見るような料亭の中をしげしげと眺め回した。

 

「加原くん、君のおかげでアンドロイド人権法に賛成を投じるという声が、若者を中心にますます高まっている。今日は労ってやろうと思ってね。何でも好きなものを食べたらいい。酒も一級品が揃ってるしな」

「ありがとうございます、先生」

 

和也は知名度を活かして次の選挙に出馬しないかと、花村代議士から打診されていた。

次期総理大臣とも言われている花村代議士の後継者として政界入りしないかとも勧められていた。

以前から花村代議士に会えば必ずその話になっていて、あおいが出て行く前にはよくあおいとも相談していた。

あおいの意見は否定的だった。

以前にも花村代議士の後継者とされる若者は何人かいて、議員になっても爆弾テロで命を落としたり、自殺したりと不審な点があり、そのことであおいは和也が花村代議士に接触することに反対していた。

それでも、和也は耳を貸さなかった。

有力者と接点を持ち、上昇していくことの何が悪いと言うのか。

既に和也のバックには有力政治家がいると世間では囁かれていた。

アンドロイド人権法の国民投票で賛成票を投じるキャンペーンに参加し、ライブのMCではそれを呼びかける。

一部のメディア、ネットの交流掲示板などでは、政治色の強くなった和也に批判的な論調も目立つようになっていた。

 

「加原くん、あることないこと、うるさく言ってくる奴らもいるが、そんな雑音に耳を貸す必要はない」

「先生、やっぱそうですよね。俺、気にしてないっス」

「その意気だ。やっぱり、私の後継者に相応しいな。今度、うちの娘にも会わないかね」

「おお、いいっスねえ。先生のお嬢さんなら美人でしょうねえ」

「こらこら、お世辞を言うな。わっはっはっはっはっ!」

 

気を良くした花村代議士は和也のグラスになみなみと酒を注いでくれた。

和也は最初のうちは得意になって酒をぐいぐい飲んでいたが、酔いに任せてあおいのことを口にし出した。

 

「先生、実は女のことで…」

「なるほど、そうか。それは厄介なことになったな」

 

花村代議士は和也から注いでもらった酒を飲みながら話を聞いていた。

 

「ええ、どうしたらいいんスかね」

「その手の女は厄介だな。思い詰めて何をしでかすかわかったものじゃない」

「うわあ、ヤバいっスねえ」

「よし、それは私に任せてくれ」

「え、いいんスか?」

「ああ、アンドロイド人権法のことで、君はよくやってくれたからねえ」

 

花村代議士がにやりと笑うと、京田も調子を合わせるように笑いながら酒をを飲み干した。