スーパースターはごきげんななめ 第十一話~闇に潜む神の正体

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写真はイメージです。

 

まごころの朋と持ちつ持たれつの関係になり、離れられなくなってしまった三澤だったが教団と結びつきを強めれば強めるほど、ミュージシャンとしての評価がますます高まっていった。

古くからのファンだけではなく、新規で付くファンも途切れることはなく、SNSでも三澤はとにかく絶賛されていた。

それもそのはず、SNSに関してはまごころの朋や憲民党、竜嶺会が工作員を大量に雇って三澤を絶賛する投稿をさせていた。

確かに三澤の音楽の才能は素晴らしかったが、それに更に輪をかけるように陰に潜む存在からの働きかけが効いていた。

 

「三澤くん、ほら、もっと飲んで飲んで」

「はい、いただきます」

 

三澤は教祖の河原が直々に注いだ酒を一気に飲み干した。

 

「ところで三澤くん、まゆちゃんは最近も忙しいんだな」

「ええ、おかげさまで。デーヴァ様のおかげです」

「ワッハッハッハッ!そうかそうか。そこで、だ。まゆちゃん、一晩借りられないかね?」

「え?」

 

河原は三澤が交際しているまゆと一晩過ごしたいと話をもちかけてきた。

 

「あんな綺麗な娘、そうそういないだろう。どうかね?一晩でいい、貸してくれないか?」

 

貸すとか借りるとか、まゆは物ではない。

何と答えたら良いものか、三澤は返答に詰まってしまった。

 

「おや、どうした?貸してくれないのか?」

「ええ、それは…」

 

三澤が口ごもっていると、河原は高笑いした。

 

「ワッハッハッハッ!冗談だよ!」

 

いくら冗談でも言っていいことと悪いことがある。

三澤は不快だったが教祖には逆らえない。

何も言い返せず三澤は黙るだけだった。

 

 

「さ、レポーターたちが正面玄関に集まってるから、こっちから出て帰ろう」

「はい」

 

まゆはテレビ局での仕事を終え、マネージャーの木村と地下の駐車場に降りてきていた。

三澤とのことでレポーターに追いかけられるのには慣れているとはいえ、煩わしいことには変わりなかった。

駐車場の入口から停めてある車まで、まゆと木村が進もうとしているところへ脇から突然、黒ずくめの男が数人現れた。

 

「こんにちわあ、まゆちゃん」

「どなたですか?取材なら事務所を通してください」

 

男たちに取り囲まれたが、木村はまゆの手をしっかり握って押し退けようとした。

 

「あんたに用はないんだよ」

「ちょっと!何やってんだよ?!」

 

男の一人がナイフを取り出してちらつかせた。

 

「ほら、邪魔するとまゆちゃんの顔にキズがつくぜ」

 

まゆは木村から引き離され顔にナイフを当てられた。

 

「動くんじゃねえぞ。スマホ、こっちに渡せ」

 

木村からスマホを取り上げると、ナイフを持った男と一緒に男たちはまゆを引き摺るように後退りした。

このままではまゆが誘拐されてしまう。

かと言って下手に動けばまゆの身が危ない。

絶体絶命と思われたが、まゆは掴まれている腕を振りほどいた。

 

「木村、手出し無用です」

 

不審な男の手を払い除けると、まゆは顔に当てられていたナイフの刃を掴んでへし折り、ナイフを持っていた男の腕を捩じ上げるとそのまま投げ飛ばした。

 

「いててて、何なんだよ?!」

「おい、なんか、おかしいぞ」

 

男たちは、ナイフの刃が割れて粉々になったのを見て狼狽えた。

 

「あなた方、どういうつもりですか?」

「な、なんかやべえぞ!」

「逃げろ!」

 

何やらただならぬ雰囲気を読み取った男たちは、停めてあった車に乗って逃げようと広い地下駐車場内で走り出した。

 

「ええ?!なんで?!」

 

停めてあった車まで走って行こうと全力疾走した男たちだったが、まゆは先回りして行く手を阻んだ。

追いついてくるスピードが尋常ではないくらい速い。

男たちは後退りした。

 

「あなた方、何者です?」

「何だろうと関係ねーだろ!」

「これでどうだ!」

 

男の一人が拳銃を取り出してまゆに向けた。

 

「あらあら、危ないオモチャですね」

「おい、脅しじゃねえぞ!」

「そんなもの、私には通用しませんよ」

「な、何なんだよ!撃つぞ!ホントだぞ!」

 

拳銃を向けられても怯むことがないまゆに向かって男は発砲した。

銃声が一発、駐車場に響いたがまゆは全く動じなかった。

それどころか、まゆが握った拳を開くと銃弾がぽろりと落ちた。

 

「え!!なに!?」

 

発射された銃弾をまゆは素手で掴んで止めた。

あり得ない事態に男たちは驚愕した。

 

「見られたからには生かしておけませんね」

「ウギャッ!!」

 

まゆは男たちに近づき、端にいた男の首を片手で掴んで軽々と持ち上げた。

 

「ぐ、ぐるうじい。やめてくで」

「まずは、あなたからですね」

 

苦しむ男の表情を見ながらまゆは笑い、首を掴んでいる手に力をこめた。

 

「ぐべええ!」

 

バキッと鈍い音がした。

まゆが手を放すと脱力した男の体は床にぐにゃりと落ちた。

素手で軽々と人間の首の骨を折り息の根を止めたまゆは、更に男たちにじりじり詰め寄った。

 

「おいおいおい、やべえぞ」

「なあ、やめろよ。は、話し合おう」

 

男たちは後退りしながらまゆをなだめたが、全く聞き入れられなかった。

 

「うわー!!助けてくれー!!」

 

駐車場内を逃げ回る男たちだったが、走り回る速さの何倍ものスピードで追いついてくるまゆに捕まり制裁を加えられた。

首の骨を折られる、殴り飛ばされて首が飛ぶ、殴られた勢いで壁にめり込む。

駐車場内に悲鳴が響き、血がほとばしった。

 

「おい、やめてくれよ。助けてくれ。何でもするから」

 

最後に残った男は壁際に追い詰められ、命乞いした。

 

「あなた方、何者です?私の正体を知っての狼藉ですか?」

「んなこと、知らねえよ」

「では、誰の指図ですか?」

「言えねえな」

「そうですか。これでどうです?」

 

まゆはまた男の首を片手で掴み、軽々と持ち上げた。

 

「ぐるじいいい」

「あなた方のボスは誰です?」

「うううう、ま、まごころの朋の河原だよ」

「まごころの朋、宗教団体のですよね?」

「ぐげえええ、離してくれよ…グワッ!」

 

男から質問の答えを引き出したまゆが首を掴んでいる手に力を込めると、絶命した男の体は床に転がり落ちた。

 

「木村、聞きましたか?」

「はい」

「まごころの朋の河原。くせ者ですね」

「おそらく、スカイ様に邪な関心を寄せているのかと」

「でしょうね。私がスカイゾーンの部品だとは知らないとはいえ、うっかりちょっかいを出せばどうなるかわかっていませんね」

 

まゆは国中のアンドロイドを稼働させているスーパーコンピューター、スカイゾーンの部品の一部で自身もアンドロイド。

アンドロイドは一般の家庭にも普及し人間の生活に入り込んでいて、アンドロイドを制する者が社会を制する世の中になりつつある。

スカイゾーンはアンドロイドの普及と共に経済界、政界、大企業、マスコミ、各方面に影響力を持ち始め、この国を支配しようとしている。

その意思を実行するのが自由に動き回れるアンドロイドの佐伯まゆ。

この事実を知る者は限られていた。

それを知らない河原は配下の者を使ってまゆを誘拐し、良からぬことを考えていたのだろう。

スカイゾーンにはお見通しだった。

 

 

「ねえ、俊介さん。今日ね、仕事から帰る時に…」

 

その夜、同棲中の部屋に帰ってきた三澤にまゆはその日の出来事を話した。

 

「ええ!それはマズいだろ!」

「でも木村さんも無事だし、駐車場の防犯カメラの記録は削除させたし死体も処理させたわ。表沙汰になることはないわね」

「それはそうだろうけど、河原の奴、大丈夫かな?」

「大丈夫って?」

「河原はまゆに興味があるんだよ」

 

三澤は河原から求められたこと、まゆを一晩でいいから貸して欲しいと要求されたことを明らかにした。

 

「まあ、下品ね」

「だろ。俺は断ったんだよ。それなのにこっそり手を回すなんて気味が悪いな。まゆの正体を知らないとはいえどだぞ」

「俊介さん、そろそろ河原とも手を切っていいんじゃない?」

「ああ、そうかも知れないなあ。ただ、河原と繋がっていることで俺にはメリットがある。ライブのチケットやグッズを高額で買い取ってくれて転売し、その利益も還元してくれるしな。それに急に手を切るなんて言えば、報復がありそうなんだよな」

「そういうことね。何も知らないファンが困ろうが、あなたのライブチケットを買い取ってくれて高額で転売する。利益は折半であなたは儲かり、まごころの朋の庇護を受けられる」

「そうそう。しかし、まゆにちょっかいを出すとはなあ。前から胡散臭いと思ってたけど、まゆの言う通り河原とは手を切った方がいいのかな」

 

三澤は河原がまゆにおかしな関心を寄せていることが不快だった。

河原と繋がる旨味はあったが、まゆにおかしな興味を持たれるのは心外だった。

 

「いっそ、教団を告発したらどうかしら?脅して金を出させるというのも一興じゃないかしら?」

「なるほど」

「俊介さんは河原と付き合うことで教団の裏を知り尽くしているでしょ。利用できるものは利用しましょうよ」

「それもそうだな」

 

まゆに入れ知恵され、三澤は大きく頷いた。

 

「ところで、俊介さん。これは何?」

 

話が一段落すると、まゆは自分のスマホの画面を三澤に見せた。

 

「あ、ああ。これか…どうしたんだ、この写真?」

「調べさせたけど、この女性はブルーエイジの代表よね?」

 

まゆのスマホの画面には、三澤と美琴が波打ち際を仲睦まじく歩く姿が写っていた。

三澤はバツが悪そうにした。

 

「そ、そうなんだよ」

「ずいぶん仲が良さそうね」

「ああ、まあな。ブルーエイジの今後のことで相談に乗ってたんだ」

「あら、そうなの。まごころの朋、河原の乱交パーティーでも一緒だったって聞いてるけど。この人、薬漬けでもう廃人なのよね」

「そうなんだよ。ブルーエイジの方は別の女の子が代表を引き継いだんだ。ファンクラブ運営には何の関係もないんだ。ファンクラブは何も変わらないし、俺の活動にも何の影響もない」

「それと一緒に海に行ったことと何の関係があるのかしら?」

「まゆ、ごめん!俺が悪かった!」

 

ソファに座って苦しい言い訳をしていた三澤だったが、そこから降りて床に額を擦り付けるような格好でまゆに向かって土下座した。

 

「ねえ、浮気は今に始まったことじゃないわよね?」

「それはさあ、俺にもいろんな付き合いってものがあるだろ」

「金輪際、やらないと言わなきゃ許さない」

「わかった!わかったよ!俺はまゆ一筋なんだ」

「なんだか怪しいわね。まあ、いいわ。信じてあげる。いい?私を裏切ったらどうなるか、わかっているんでしょうね」

「もちろんだよ!」

「よく考えることね。あなたがミュージシャンとして成功できたのは私のおかげなのよ。竜嶺会や憲民党とのパイプを繋げてあげたのは、この私。そこから政治家の伝手であなたはまごころの朋とも繋がれたのよ」

「そうだよ!わかってるともさ!政府も反社も奴らを支配しているのはスカイゾーン、まゆなんだ。この国では誰もスカイゾーンには逆らえないんだ。逆らうとヤバいもんな。は、はは、ははははは」

 

三澤は顔を引き攣らせながら苦し紛れに笑った。

 

「本当にわかってる?この国では政治家も経営者も教育者も、宗教家までもが私利私欲を貪り、自分のことしか考えず、堕落しているのよ。人間なんかに国の舵取りは任せておけないわ。社会を立て直すのは私たちアンドロイドよ。だから私は手始めに権力を持つ人間を従わせてきたの」

「そ、そうだよな。その通りだ」

「どの人間も似たようなものね。自分がかわいいから自分より力のあるものにはペコペコして。みんな、人間より能力が高いアンドロイドを恐れて阿ているのよね」

「俺は、まゆの高い志は素晴らしいと思うよ」

「本当にそう思っているのかしら?そのくせに、いろんな女にちょっかい出してるわよね」

「それは心から反省してるよ。申し訳なかった」

「いいでしょう。わかっているなら女遊びは控えることね」

「はい。わかりました」

 

スカイゾーンの機嫌を損ねればどうなるか。

これまでに何人の人間が消されてきたことか。

まゆの傍にいてそれを見てきた三澤にはわかっていた。

三澤は背中を丸め両手をついて土下座のまま顔を上げることができなかった。