皇女 イズミ 第八話~危ない彼氏

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tomatoma-tomato77.hateblo.jp

写真はイメージです。

 

さくらが仕事を終え、仮住まいで滞在しているホテルの部屋に戻ってきてテレビをつけると、ちょうどニュースをやっていた。

仮住まいとはいえ、さくらはもうネットカフェを渡り歩くのではなく、闇夜の獣の援助でホテル住まいを始めていた。

部屋のテレビに映っているのは臨時のニュース速報らしかった。

 

「大惨事が起こってしまいました!ミカドが狙撃され、崩御されました!」

 

テレビの中では見たことのあるニュースキャスターが興奮気味に、ミカドの銃撃、崩御を伝えていた。

犯人はどんな人物か、何が狙いか。

急遽、出演することになったのだろう。

専門家だと称する知識人がミカドの狙撃について意見していた。

上を下への大騒ぎとは正にこのことだ。

それにしてもミカドが撃たれただけで蜂の巣を突いたような大騒ぎ。

ミカド制のこういうところが気に入らないのだ。

エーカ帝国国民ならミカドを慕い、尊敬して当たり前。

そうでない者は非国民扱い。

さくらは世の中に蔓延しているこういう空気が気に入らなかった。

殺し屋としてミカド制を潰すためなら何でもする。

そんなことを考えながらふとスマホを見ると、約束の金額が振り込まれているではないか。

いや、それ以上だ、

ゼロが2つ多い。

成功報酬も上乗せで支払われるとは聞いていたが、本当に振り込まれた。

マンションが何軒か買えるほどの金額が、さくらの秘密口座に振り込まれていた。

やはり、ミカドの首を取った報酬は大きい。

さくらは明日、分譲マンションのモデルルームに行こうと決めた。

優秀な成績で殺し屋のセミナーを終えたさくらに、闇夜の獣はホテル住まいを続けてもよいと言ってはいるが、さくらは殺し屋などいつまでもやる仕事ではないと考えていた。

次のターゲットは国民の輪の党首、岡本。

さくらが闇夜の獣に逆指名して撃つことに決めたターゲットだった。

岡本を仕留めたら殺したい人間はいない。

その後は一生遊んで暮らせるだけの金を稼いだら殺し屋稼業は辞めよう。

さくらはそう考えていた。

 

結局その後、岡本の首は難なく取れた。

ミカドに比べれば岡本の警備はないも同然。

さくらは岡本が国民の輪の党本部に姿を現し、建物の中に入る間のわずかな瞬間を逃さなかった。

党本部から離れたビルからの狙撃だったが、望遠のスコープを使って狙いを定めるのは難しくなかった。

離れたビルから狙いを定めたことで、さくらは誰にも見つかることなく仕事を終えそのまま静かに立ち去った。

そして、仕事の後は速やかに報酬が振り込まれる。

過激な主張でSNSでは”カルト教団”とも揶揄される国民の輪。

何かと話題になる党首の岡本の首を取ったことで、報酬はやはり桁が違っていた。

何と言ってもミカドの首を取ったことで、さくらは他の殺し屋とは違う待遇を受けていた。

報酬の桁が違うのはそのためなのだ。

しかし、あと2、3件の仕事を受けたら殺し屋も辞めよう。

さくらはそう考えていた。

報酬も十分に得られるだろうし、そうなると働く理由がない。

一生遊んで暮らせるほどの報酬が振り込まれれば、何か好きなことで店でも出して悠々自適に暮らそう。

さくらはそう決めていた。

そんなことよりも、今日はホストクラブに行こう。

さくらはミカド狙撃の超高額な報酬が振り込まれててから、ホストクラブで散財するようにもなっていた。

今のさくらにはホストクラブで散財する金額もはした金だった。

殺しの仕事と仕事の合間、退屈になるほどの時間が余りさくらは習い事を始めたり暇つぶしになることを探していたが、ホストクラブ通いもその一つだった。

王族でいた頃は自由がなく、ホストクラブ通いのようなはしたない遊びに耽るなど考えたこともなかったが、自分はもうあの頃のような籠の鳥ではないのだ。

さくらは自分は自由の翼を手に入れたのだと満足していた。

 

「いらっしゃいませー!!あ、さくらさん、こんばんはッス!!」

 

ホストクラブ、マドゥーヤにさくらが着くとお気に入りのホスト、翔が迎えてくれた。

翔はマドゥーヤのナンバーワンホストで、巧みな話術でさくらの自尊心を満たしてくれていた。

 

「さくらさん、今日も綺麗っスね」

「翔くん、今日もお上手ね」

 

さくらの周りには他のホストも集まってきて盛んにおだててくれた。

シャンパンタワーをしたり、くだらない話を聞いてもらったり、さくらはいつもそうだが気分が高揚して満足感に浸っていた。

 

「翔くん、今日はお寿司でも食べにいこっか?」

「あざーす!ゴチになりまーす」

 

さくらはマドゥーヤに来るといつもそうだが、ホストクラブの閉店後はお気に入りの翔を連れ出して高級寿司店やBarに立ち寄り、そのままさくらが住む高級マンションで次の日の昼頃まで二人で過ごしていた。

 

「ああ、お寿司美味しかったわねえ。もうお腹いっぱい!」

「俺、風呂の湯、溜めますよ」

 

ホストクラブで遊んだ後は二人で食事をして、そのままさくらの住むマンションに帰ってくる。

こんな生活が週に5、6日続いていた。

 

「ねえ、翔くん。もう、ここに住んじゃえば?」

「え、いいんッスか?」

「いいの、いいの。そう思って一人じゃ広い間取りの部屋を買ったんだし。っていうか、結婚しよっか?」

「うひゃああ、逆プロポーズっスか!」

 

翔はまんざらでもなさそうな反応だった。

金なら唸るほどあるさくらは、翔を養ってもよいとさえ考えていた。

 

「あたしね、何かお店でもやりたいのよねえ。ごはん屋さんとかどうかな?翔くんに手伝ってもらえたら嬉しいなあ」

「そう言ってもらえて、俺も嬉しいッス!」

 

これはオイシイ展開ではないか。

翔は遠慮する素振りを見せながらも心の中ではほくそ笑んでいた。

 

「翔くん、マドゥーヤももう辞めたら?」

「え、ホスト辞めてさくらさんの専属ッスか?」

「そうね。専業主夫もいいんじゃない?」

「ウヒャヒャヒャ!俺、料理なんてできないッスよ」

「いいのよ、少しずつでも覚えれば」

「そっかあ、さくらさん専属。専業主夫かあ…あ、そろそろ、お湯が溜まるころッス」

 

翔はにやけながらバスルームの様子を見に行った。

 

「さくらさん、お湯、沸いたッスよ」

 

翔はリビングでテレビを見ているさくらにそう声をかけた。

 

「何見てるんっスか?へ?ニュース?」

 

テレビでは報道番組をやっていて、政治の話題を取り上げていた。

 

「それでは、正田さんは国民の輪の今後はますます不透明とお考えですか?」

「そうですね。岡本党首は何者かに銃撃された。その銃撃した人物は何者か?これは必ず解明しなければなりませんね」

 

テレビの報道番組や週刊誌、ネットニュースなどでも知られているジャーナリストが、国民の輪の党首・岡本が銃撃されて死んだ事件の解説をしていた。

さくらはそれを見ながら鼻で笑いたい気分だった。

いつまで岡本銃撃の話題を引っ張るのだ。

岡本は極悪人だから消されたのだ。

『強いエーカ帝国を取り戻す』『エーカ帝国国民は全てミカドの子』『何千年も続いてきたエーカ帝国は唯一無二』

こんなナショナリズムには反吐が出る。

だから頭を吹っ飛ばしてやったのだ。

さくらは国民の輪の白々しいスローガンに辟易していた。

ナショナリズムを煽るのは結局は金儲けのためのくせに、よくもまあ恥ずかしげもなく偉そうな主張をできたものだ。

偉そうなジャーナリストも、何も本質を理解していない。

さくらは誰も何もわかっていないことが馬鹿馬鹿しいことこの上なく、テレビを見ながらせせら笑っていた。

その様子を見ていた翔がさくらに尋ねた。

 

「さくらさん、何を笑ってるんスか?」

「ああ、別に。政治家なんてあくどいことばかりして恨まれて当然でしょ。誰かに殺されちゃったのよねえ」

「へえ、俺はそもそも政治になんか興味ないッス」

 

それはそうだろう。

ホストなどという人種は如何に面白おかしく生きて、金儲けをするかだろう。

今、報道番組で取り上げられている岡本がどんな人物で、国民の輪がどんな団体か。

翔は全く興味がないに違いない。

況してや、さくらが岡本を銃撃したなど夢にも思っていないだろう。

しかし、さくらは翔のそんなところが一緒にいて楽だった。

 

 

数時間後、隣でぐっすり眠っている翔が目を覚まさないようにさくらはそっとベッドを抜け出した。

スマホをチェックするとまた仕事の依頼が入っていた。

危うく見逃すところだったが、さくらに依頼される仕事はもう他の殺し屋には持ち掛けられる案件ではなくなっていた。

さくらだけに依頼される枠のようなものがあり、多少、返信が遅くなっても大目に見られていた。

昨日は少し飲み過ぎた。

さくらは目覚ましのシャワーを浴びようとバスルームに向かった。

 

さくらが寝室を出て行くと、翔は静かに起き上がった。

目は覚めていたが寝たふりをしていたのだ。

翔は枕元に放置されたままのさくらのスマホに手を伸ばした。

さくらはホストクラブでも派手に遊んでいるが、どこからそんな収入を得ているのか?

翔はその謎を解こうとさくらのスマホを覗き見する気でいた。

 

「んー?画面ロックか…」

 

思った通り、さくらのスマホには画面ロックが設定されていてすぐには中を覗けなかった。

 

「んん、と。パスワードは$#%>_#*%…かあ。チョロいな」

 

ホストになる前はフィロス電機で技術者として働いていた翔は、素早くパスワードを読み取り画面ロックを解除した。

 

「へへ、やっぱ素人だな。チョロいチョロいww」

 

翔はさくらのメールやSNSへの接続の履歴、ネットバンクの入金の記録を画面に表示させると自分のスマホで写真に撮って記録した。

 

「何だ、これ?闇夜の獣?ここからかなりの額が入金されてるな。何の団体だ?」

 

翔はとにかくさくらのスマホの画面を写真に撮り、自分のスマホに入れていった。

そうこうしているううちに、バスルームの方から物音がした。

さくらがシャワーを終えたのだろう。

翔は何食わぬ顔をして画面ロックをかけ直し、さくらのスマホをまた枕元に置いた。

 

「あら、翔くん。起きてたの?」

「ああ、俺もシャワー浴びよっかな」

「そうしたら?さっぱりして気持ちいいわよ」

 

何も知らないさくらはいつもと変わりなく翔と言葉を交わした。

翔はさくらに勧められるままシャワーを浴びながら、盗み取ったさくらの情報について考えていた。

闇夜の獣、殺し屋本舗、外国の秘密口座専門の銀行…。

怪しげで胡散臭い相手とさくらはやり取りしているらしい。

口座に振り込まれているのはかなり高額の金額だが、何をすればそんな金を振り込んでもらえるのか?

殺し屋本舗…文字通りの殺し屋か?

闇夜の獣とは何者か?

盗み取った情報を精査し、さくらの秘密をつかみ、自分も肖りたいものだ。

ホストの仕事以上に大金を掴めるチャンスではないのか?

さくらにはまだ利用価値があるが、大金が振り込まれるカラクリがわかればもう用はない。

シャワールームを出た翔は作り笑いを浮かべながら、キッチンで朝食の支度をするさくらに近づいた。

 

「さ・く・らちゃん。目玉焼きでも作ろっか」

「あら、いいのよ。テレビでも見てて」

「そっか。じゃ、お言葉に甘えて」

 

翔はタオルを首にかけたままリビングのソファに座り、テレビのリモコンを手にした。

テレビをつけると朝の情報番組が流れ、トップアイドルの佐伯まゆのコンサートツアーの話題が取り上げられていた。

 

「あー佐伯まゆかあ。この娘もなんか胡散臭えんだよなあ。さくらさんもそう思うだろ」

「どうなのかしらねえ。確かに、憲民党のポスターになったり、ちょっと変よねえ」

「ちょっと?いやいや、絶対おかしいって。ヒャハハハ」

 

翔はいつも以上に快活に声をあげて笑った。