本編の前にご案内です。
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こちらは私の拙い日記、私の本音です。
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写真はイメージです。
その次の日から、セミナーの参加者は殺しの基礎から学び始めた。
まずは教室のような部屋で受ける講義形式の時間があり、理論を学び始めた。
それ以外にも映像を見て実際に武器を使うのはどうしたら良いかを学んだり、それに慣れてくるとセミナーが始まって一週間後にはいよいよ実習も始まった。
殺しの実習とはどんなことをするのか?
それは宿泊場所を出た外で行われた。
昔は遊園地だったのかと思われる開けた場所があり、そこにぼろぼろの服を着た男が数十人連れてこられた。
「皆さーん!この"元囚人"をこれから放しますから好きなように撃っていいですよー!」
合図のホイッスルが鳴ると、囚人だという男たちは足に付けられていた重りをを外され放たれた。
ここで躊躇うようでは殺し屋失格なのだ。
さくらは逃げ回る囚人を裕太を殺した国民の輪や、カラハ国防十字隊だと思って銃の照準を合わせ引き金を引いた。
民主協働党と敵対しているのは、極右政党の国民の輪。
裕太が死んだ事件の背後には国民の輪がいるに決まっている。
”民主協働党、講演会爆破””民主協働党、嫌がらせ”で検索すれば、面白おかしく事件を語る勝手な投稿が溢れていた。
さくらはそんな投稿を見て無責任な世の中にも憤っていた。
「ウヒョー!!すげえなあ!!」
さくらと同じように銃で囚人を撃ちまくっている参加者たちは歓声をあげていた。
さくらたちに与えられた銃は動物用のもので、人間に当たると体がバラバラになって飛び散るほどの破壊力があった。
逃げ回る人間に弾が当たると体がバラバラになって肉片が飛び散る。
普通に考えれば目を背けたくなる光景だったが、さくらは目の前の標的を撃つ快感のようなものに支配されていた。
飛び散ってバラバラになるのは、裕太を殺した連中なのだ。
さくらはそう考えながら、逃げ惑う囚人を片っ端から撃ち殺していった。
「はーい!それでは研修終了でーす!各自の成績をまとめますから少々お待ちください!」
係の合図で射撃を止め、参加者たちは誰がトップになるか楽しみに待っていた。
射撃訓練の係は楽しいゲームを競い合っているかのように何かを数えていた。
残虐なゲームの結果を楽しみに待つ。
人の心を失わなければそう考えることはできない。
ならば、自分はもう人の心はなくしたのだ。
復讐のためにさくらは人の心を捨てる決意を固めていた。
「では、成績を発表します!コード番号7823がトップに立ちました!」
セミナーに来てからは参加者は名前ではなく、コード番号で呼ばれていた。
さくらのコード番号は7823。
殺し屋になってもこの番号で仕事を受け、報酬を得ることと定められていた。
その後も殺し屋になるための様々な講習をうけ二週間のセミナーを終えると、参加者は大広間に集められた。
参加者がざわざわ私語に耽っていると、若いスタッフに付き添われて老人が姿を現した。
元は宴会場だったと思われる大広間にはステージがあり、置かれていたマイクスタンドの前に老人は立った。
「えー、皆さん、セミナーお疲れさまでした。これでみなさんも殺しのプロです。最初は小物のターゲットから始めてもらいますが、徐々にレベルアップしてですね。そうなると、お金も稼げます。裏稼業ですから税金もかかりませんし、正に濡れ手で粟。仕事の依頼は皆さんのスマホに送信します。一斉に送信しますから、一番早く気づいてアクセスしたもの勝ちです。あ、申し遅れました。私は”闇夜の獣”代表の村田と申します」
闇夜の獣。
聞いたことがない組織名だったが、老人の話を聞く限りそれが殺し屋の元締めの組織らしかった。
仕事は闇夜の獣を通じて依頼される。
大広間に集められ、話を聞いていた参加者たちはざわめいた。
「それではですね、私の話はここまでです。これから皆さんは来た時に乗っていたバスにまた乗って街に戻ってもらいます。スマホのチェックだけ気をつけてください。仕事にあぶれてもこちらは責任は取れませんから」
そう言うと村田と名乗った老人は、またスタッフに付き添われて大広間を出ていった。
「おい、さっきの胡散臭えじじい、何なんだろうな」
「要するに元締めだろうな。殺し屋の元締め、胡散臭えことこの上ねえなあ」
「でもよ、スマホに来る依頼をこなせば金がもらえるんだろ。オイシイっちゃあオイシイ話じゃねえか?」
セミナーの参加者は殺し屋になるための講義を全て終え、山奥の廃業旅館を出たマイクロバスは街に向かっていた。
バスの中ではセミナーの参加者たちが闇夜の獣について、あれこれと言い合っていた。
その会話を聞きながらさくらはバスに揺られていたが、そんなくだらないことよりも自分は国民の輪の代表を務める岡本を仕留めたいのだ。
スマホに依頼が来る前に、いわば”逆指名”のような形で殺すターゲットを指定できないだろうか。
岡本を仕留めることだけは、他の者に横取りされたくない。
さくらはそんなことを考えていた。
マイクロバスは街に入ると何ヶ所かで停まり、乗っていた参加者は都合がいいところでバスを降り街の雑踏の中に紛れて消えていった。
さくらは黄金町の駅前でバスを降りたが、山奥からバスに揺られて疲れていた。
殺伐としたセミナーを終えたさくらは、プリヤに向かったが店のドアには”臨時休業”の札がかかっていた。
なぜ、臨時休業なのか?
よく考えたら、プリヤのマスターも堅気とはいえない雰囲気が漂っていた。
人は見かけによらぬもの。
自分もそうだが、あのマスターも何か裏稼業に関わっているのかも知れない。
さくらはそんなことを考えながらプリヤを離れた。
ネットカフェでシャワーでも浴びようか。
駅前のネットカフェにチェックインし、個室に入ったさくらはその前にスマホをチェックした。
「え?」
なにげなく画面を覗き込んださくらは、スマホに届いている通知を二度見した。
「これって…」
さっそく殺しの依頼が届いているではないか。
ターゲットはミカド。
さくらの父、ミカドがターゲットになっている。
どういう理由でミカドがターゲットになっているのか?
さくらはそれが知りたくてすぐに返信してみた。
さくらからのメッセージにすぐ答えが返ってきた。
『コードナンバー7823。さっそく仕事です。使用する銃はこちらで用意しています。これから指示する場所に来なさい』
『こちらから質問してもいいかしら?』
『ええ、いいですよ。どんなことですか?』
『ミカドがターゲットって、それはなぜ?』
『左派の過激派からの依頼です。彼らはミカドは身分差別の象徴だと主張しています。生まれながらに尊いとされ、特別扱いされるミカドとその一族。これが差別でなくして何だというのか?ミカドは抹殺されるべき対象なのです。この国の自由と平等のためにミカドは抹殺しなければならない。これが闇夜の獣に持ち込まれた左派の過激派の依頼です』
確かに、それも一理ある。
さくらもミカド一族に生まれ、国民が不景気に苦しむ時でもミカド一族だけは何不自由ない生活が保障されるのは何かがおかしいとずっと考えていた。
ミカド一族が贅沢な暮らしをする一方で国民は生活苦に喘ぎ、それでもミカド一族はそれをおかしいとも思っていない。
閉ざされた一族の中で窮屈な思いをしていたさくらは自らの意思でそこを出た。
そして、今、問題の本質であるミカド暗殺の計画を知った。
ミカドが死ねば国内は大混乱だろう。
『コードナンバー7823。我々は単にターゲットの殺害だけではなく、世直しをするためにこの活動を展開しているのです。ミカド制を廃止し、自由で平等な社会を目指す。それが我々の目指すものです。この仕事、受けますよね?』
どうやらメッセージに反応したことで、任務を断ることはできないようだった。
『あの、この仕事を受けるとして。お願いがあります』
『どんなことですか?』
『仕留めたい相手がいるのです。その者を私に殺らせてください』
スマホに届いたメッセージの相手は一瞬だけ黙ったが続けた。
『なるほど、それは誰ですか?』
『国民の輪の党首、岡本です』
『国民の輪の岡本。極右政党の党首ですね。わかりました、認めましょう。それでは、ミカドの件は受けるんですね』
『はい』
さくらがそう返すと、すぐにファイルが送られてきた。
指示通りにファイルを開くと、地図や建物の名前が示された。
どうやら、ここが取引の場所らしい。
ここに行って銃を受け取り、ミカド暗殺の詳しい話を聞くことになるのだろう。
父であるミカドを自分が暗殺する。
さくらは闇夜の獣の主張は尤もなことだと賛同できた。
同じ人間なのにミカド制はそれを分断するものなのだ。
自分も常に窮屈な思いをして生きてきた。
今がそれを終わらせる時なのだ。
何より、裕太の仇をとるために岡本をターゲットにする。
そのためなら何でもする。
さくらの決意は固かった。
ミカドを撃つのは裕太の仇を取るためなのだ。
裕太への思いだけがさくらを突き動かしていた。
さくらのコードナンバーは7823。
闇夜の獣の使者とは雑居ビルの中にある事務所のような部屋で落ち合った。
「それで、こっちがミカドを仕留める銃です。使い方は合宿でやりましたよね?7823は優秀な成績を修めていますから期待していますよ」
用意された銃は猟銃のようなものだったが、組み立て式で持ち歩いても銃とはバレない作りになっていた。
そして、ミカドを狙う場所、ミカドがパレードを行う道路沿いのビルの屋上が指示された。
「では、他に質問は?」
「いえ、大丈夫です。わかりました」
「ミッションの成功を祈ります。それでは」
短いやり取りを済ませると、さくらは事務所を出て雑居ビルを離れた。
ミカドは国の祝日、エーカ帝国独立記念日を祝う祝賀パレードで街中を練り歩くことになっていた。
そこを狙うのが今回のミッション。
三日後さくらは指示されたビルの屋上にやって来た。
ミカドが来るまでじっと待っていたが、その間いろいろなことを考えていた。
ミカド一族に生まれ窮屈な生活だと感じていたこと、国民は生活苦に喘いでいてもミカド一族だけが贅沢三昧だったことへの疑問、それでも、幼い頃は父のミカドと宮殿の庭で無邪気に遊んだこと。
ミカドも悪人ではないのだ。
父としては真っ当でさくらの幸せを願ってくれていたに違いない。
その父をこれから暗殺しようとしているのだ。
迷いがないわけではなかったが、やはり、ミカド制は終わらせなければならない。
全ての国民が自由に平等に生きられる社会を目指すためにはミカド制は不要なのだ。
自分はエーカ帝国のためにミカド狙撃をやろうとしているのだ。
しかし、そんなことよりも裕太の仇を取るのだ。
ミカド暗殺を受けることで、国民の輪の岡本を仕留める逆指名ができた。
これでいいのだ。
さくらは自分にそう言い聞かせた。
ビルの屋上で待つこと30分ほど。
賑やかな音楽隊の演奏が聞こえてきた。
ミカドがパレードをする時は必ず宮中音楽隊が共に練り歩き、パレードを一層華やかなものにしていた。
ミカドを乗せたオープンカーが近づいて来る。
よく考えたら、オープンカーでパレードとは狙撃してくれと言っているようなものではないか。
さくらは銃の安全装置を解除し、スコープを覗き込んで照準を合わせた。
裕太の仇を取るために殺し屋となり、その初仕事が父の暗殺。
これも何か、運命の巡り合わせなのだろう。
さくらは裕太のために殺し屋として生きることを決めていた。
ミカドを乗せたオープンカーが十分に近づいてきた。
さくらは何の躊躇いもなく引き金を引いた。
パン!と発砲音がした次の瞬間、ミカドの頭はスイカ割りのスイカのようにバラバラになって吹き飛んだ。
頭部を吹き飛ばされたミカドはオープンカーの車内に倒れ込み、沿道からだけでなく、ミカドの車の前後の車からも悲鳴があがった。
「キャーーーーー!!」
「何だなんだ!!どうしたーーー!!」
ミカドが狙撃され頭部を吹き飛ばされた。
沿道に集まっていた国民も、前後をゆっくり走っていた車に乗る他の王族からも悲鳴があがりパニック状態に陥っていた。
さくらはその様子を見ながら、ミカドが確実に死んだことを見届け、銃を畳むとそっとビルの屋上を離れた。