皇女イズミ 第六話~闇と繋がる時

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写真はイメージです。

 

裕太は民主協働党の宮本議員の講演会で受付を手伝うことになっていた。

講演会の会場になるホテルの一番大きい宴会場の扉の前に受付が置かれ、裕太は用意された椅子に座って机に向かい参加者が来るのを待っていた。

講演会を聞きに来る参加者の名簿があり、会場に入る際に本人が来たかを確認することになっていて、少しでも不審に思うことがあれば身分証の確認も行うよう裕太は指示されていた。

明らかな不審者は通報の対象であり、正反対の主張をする憲民党や極右政党の国民の輪から妨害が入らないかには気をつけるようにとも指示が出ていた。

しかし、大部分は顔なじみの支持者や党員、議員の家族などで裕太は意外と気楽だと拍子抜けしそうなほどだった。

 

「よお、竹内!忙しそうだな!」

「何言ってやがる。それは俺が暇そうだって言いたいのかよ」

 

裕太が北條大学支部の代表を務める自由民主青年連盟のメンバーも次々と会場に現れた。

現職議員の話を聞いて勉強しよう。

自由民主青年連盟に属する学生の多くは、将来は国政に出て社会を変える志を持っていた。

裕太もそうだった。

受付の時間が過ぎたら、裕太も会場に入り宮本議員の講演を聞こうと考えていた。

そろそろ受付の時間が終了する。

裕太は受付を離れる準備を始めたが、中年の男が近づいてきた。

 

「あ、すみません。受付はもう終了しました」

「何だよ、せっかく来たんだ。入れてくれよ」

「はあ。お名前は?」

 

裕太は仕方なく、鞄にしまった参加者名簿を取り出した。

 

「山川昭吉だ」

「山川昭吉さま…え、と。お名前が見当たりませんが」

「そりゃそうだろ」

「え?」

 

裕太は山川昭吉という名前を探したが、そんな名前は名簿にはなかった。

山川と名乗る男は受付のテーブルの上に、白い風呂敷でくるまれた四角い箱を置いて黙って立ち去った。

 

「何だ?これ?」

 

裕太が白い風呂敷をほどこうとすると、大音響が響き渡った。

ホテルの一番大きい宴会場のドアが吹き飛び、真っ黒な煙がもくもくと上がり、一部は火が起こっていた。

 

「おーい!!」

「何だ何だ?!!」

 

宴会場の中にいた関係者はもちろん、同じ階にいた関係者も何が起こったのかと騒然となった。

 

「消火しろー!!」

 

何かが爆発したのか、火が起こり、大急ぎで備え付けの消火器の噴射が始まった。

その間にも消防署に通報する者、議員の安全確保に動く者、ホテルのフロアは大騒ぎになった。

 

「竹内くん!竹内くん!ああ、もうダメか…」

 

至近距離で爆発物に触れてしまった裕太は顔面がぐちゃぐちゃに破壊され、上半身の損傷が激しくとても生きているとは思えない状態だった。

 

民主協働党の講演会の会場で、爆発物が爆発した。

この爆発で複数の怪我人と死者が出た。

その頃さくらは裕太と同棲するアパートの部屋で、夕食の支度に取り掛かろうとしていた。

時間を把握するため時計代わりにテレビをつけていたが、夕方のニュースでさくらは事件を知った。

最初は音だけを聞いていたが、講演会での爆発の話が耳に入るとさくらは手を止めて噛り付くようにテレビの前に座った。

 

「この爆発で北條大学の三年生、竹内裕太さん、21歳が病院に運ばれましたが死亡が確認されました」

 

テレビの中のアナウンサーは淡々と事実を伝えていた。

裕太が死んだ?!

さくらは信じられなかった。

裕太に何かあったら連絡するようにと言われていた電話番号に、さくらは連絡してみた。

 

「あのう、竹内くんと大学で親しい者ですが…」

 

繋がったのは裕太が慕っていた民主協働党の宮本議員の秘書の携帯電話だった。

 

「青山さんですね?竹内くんから聞いています。今ですね、竹内くんの親御さんがこちらに向かっています。竹内くんに会いたい気持ちはわかりますが、こちらから連絡するまで待ってもらえますか?」

 

やっぱり裕太は死んだのか。

とはいえ、両親を差し置いて自分が出て行くわけにもいかない。

さくらは一人で涙に暮れた。

 

それから一週間後、電話が繋がった宮本議員の秘書から連絡があり、さくらは民主協働党の本部まで出かけた。

裕太は爆発を至近距離から受けて即死状態だった。

爆発物については講演会を主催した民主協働党に対する悪質な嫌がらせの疑いで警察が捜査を始めた。

裕太が住んでいたアパートは、もうすぐ裕太の両親が解約するという。

さくらは秘書から業務連絡のような話を聞かされただけだった。

 

「青山さん、お気の毒ですが。それと、警察から捜査のために事情を聞かれるかも知れませんから、その時は協力してください」

 

裕太は生前、あんなに民主協働党のために活動していたのに、死んでしまえば呆気ないものだ。

さくらは涙を拭いながら党本部を出た。

 

裕太の両親が裕太の荷物を取りにアパートの部屋まで来る。

同棲のことは秘密にしていたから、自分の荷物をまとめた方がいいだろう。

バレることはないとはいえ、自分は偽りの住民IDで生きる仮初めの人間なのだ。

さくらは裕太亡き今、静かに身を引くことにした。

 

大きなリュックサックを買い、自分の荷物を詰め込んださくらは取り敢えずネットカフェにやって来た。

自分が住むアパートを探さなくてはならなくなったが、今日は取り敢えずネットカフェに泊まろう。

さくらは駅前の大きなネットカフェにチェックインした。

プリヤの前まで行ってはみたものの、既に閉店時間になっていた。

レトロな昔ながらの喫茶店だから、夕方を過ぎれば店を閉めるのか。

さくらは仕方なくネットカフェにやって来た。

 

24時間フリータイムプランで、さくらは狭いながらもプライバシーが守られる個室に入った。

スマホは持っているが動画の配信サービスで映画を見たりするなら画面が大きいパソコンの方がいい。

さくらは好みの映画を検索して探し視聴を始めた。

フリータイムプランにはソフトドリンク飲み放題のサービスが付いていて、さくらはジュースを飲みながら映画を見てスマホではSNSを眺め、適当に投稿もして憂さ晴らしすることにした。

 

さくらはアカウントを作っている交流系のSNSにログインした。

いつものように他愛ないやり取りが続いていて、さくらは没頭するように努めた。

裕太の死、今までの生活が崩れ去ってしまったこと、それらを忘れたくてさくらは投稿を続けていた。

投稿をするとそれに対するリプライが付くことが多かったが、普段から交流のあるユーザーが絡んでくれた。

さくらは悲しみを忘れようと投稿を繰り返していたが、初めてリプライを付けるユーザーに気づいた。

ハンドルネームは”殺し屋本舗”。

なかなか風刺の利いた、ブラックユーモア的なハンドルネームではないか。

リプライにはこんなことが書かれていた。

”殺し屋、募集中。あなたも殺し屋になって復讐しませんか?”

ずいぶんキツいジョークだ。

さくらは最初はそのくらいにしか思っていなかった。

しかし”殺し屋本舗”は、さくらにダイレクトメールを送ることを許可して欲しいと呼びかけてきた。

なんだか怪しい感じもするが、嫌ならブロックしてしまえば良い。

裕太を失ったばかりのさくらは復讐できるものならやってやろうかという気にもなって、殺し屋本舗からのダイレクトメールを許可するボタンを押した。

 

『ダイレクトメールの許可設定、ありがとうございます。当方は表立っては不可能な殺しを実行するアカウントです。あなたも殺し屋になって恨みつらみを晴らしませんか?』

 

まるで、今のさくらの胸の内を見透かすようなメッセージではないか。

裕太を殺した人間になんとしても復讐したい。

裕太との平和な日常を突然奪った人間が許せない。

殺してやりたいくらいだ。

正に絶好のタイミングで”殺し屋”と繋がれた。

殺し屋になってもいいかも知れない。

さくらは興味本位のような気持ちだったが、殺し屋本舗に尋ねてみた。

 

『こんにちは。すごく興味があります。どうしたら殺し屋になれますか?』

『当アカウントが主催するセミナーがありますから、それにお申し込みください』

 

どうやら殺しの手ほどきを伝授してくれるセミナーがあるらしかった。

さくらは迷いもあったが、そのセミナーに参加してもいいと考えた。

裕太の仇を取れるなら、なんでもする。

 

『どうすれば、そのセミナーに参加できますか?』

『これをご覧ください』

 

殺し屋本舗は詳しいことが書かれたファイルを送ってくれた。

さくらがそれを開くと、セミナー場所まで乗る送迎バスの乗車場所、セミナーの日時などが詳しく書かれていた。

死んだ裕太のためにも、これはもう行くしかないのではないか。

さくらは覚悟を決めた。

 

 

その一週間後、さくらはマイクロバスに揺られある場所に向かっていた。

マイクロバスは他にも殺し屋になるためなのだろうか、若い男が何人も乗っていた。

マイクロバスは満員で、殺し屋になりたい者がこんなにもいるのかとさくらは妙に感心していた。

 

「はーい、皆さん。着きましたよ」

 

到着したのは古ぼけた温泉旅館のような建物だった。

どうやら、廃業して廃墟になった建物を使って殺し屋のセミナーが行われるらしい。

それだけでも胡散臭さ満点ではないか。

一緒にマイクロバスに乗ってきた案内係もやはり胡散臭い。

これだけの人数を集められるのなら、資金は豊富なのだろうがその原資はどこから来ているのか。

何から何まで如何わしい空気が漂っていたが、さくらはもう後に退く気は失せていた。

 

「なあ、そこのカノジョ」

「私ですか?」

「私ですか?…って、このセミナーに女はあんた一人だろ」

 

初日のレクチャーを終えると、参加者は大広間のような場所に集められた。

昔は温泉旅館だったと思われる建物には、宴会にでも使っていたのか大きな広間があった。

その大広間での食事の時間になると、さくらは他の参加者に声をかけられた。

 

「なあなあ、そんなに美人なのになんで殺し屋になろうなんて思ったんだよ?」

 

他の参加者は全員が男。

美人のさくらはいろいろな意味で他の参加者の関心を集めていた。

 

「それは、あなたがたと同じよ。誰でも殺してやりたい人間の一人や二人いるでしょう。そういうことよ」

「へええ。俺さあ、こんな美人にならブチ殺されてもいいなあ」

 

女だと思って軽く見ているのか。

この男こそ殺してやろうか。

さくらはまだ殺しのレクチャーを受けていなかったが、不愉快な相手を消せるのなら殺しの手口を教わるのも悪くないと思った。

さくらはそそくさと食事を済ませ、大広間を出た。

他の参加者が使う寝室とは離れた別棟にさくらが使う部屋があった。

廃業した温泉旅館の建物で、別棟にぽつんと一人。

幽霊でも出そうな不気味さだったが、さくらはそんなものは信じていなかった。

一番怖いのは人間なのだ。

さくらはそんなことを考えながら敷かれている布団に潜り込み、スマホSNSのサイトを見ながらいつの間にか眠りに落ちていった。