皇女 イズミ 第一話~籠の鳥は御免なの

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写真はイメージです。

 

イズミはエーカ帝国の皇帝、ミカドの長女。

一人娘で何不自由なく育てられ、大学生となり帝国一の偏差値を誇る北條大学に通っている。

これが今のところ、イズミの一番のわがままだった。

ミカドの一族は代々、皇帝の親戚や貴族、超富裕層の子女が通う貴学院大学に通うことが通例とされていたが、イズミは幼い頃から学業優秀で既存の枠に囚われたくないと強硬に主張し続けてきた。

周囲は諦めさせようとしたがイズミの意思は固く、一般の下下の学生に混じって入試を受け難関を突破していた。

イズミが学びたかったのは哲学で、北條大学にいる何人かの教授に就いて学びたいとイズミは初志を貫徹していた。

 

「イズミ、明日のコンパ、来るでしょ?」

「もちろーん!あのお店、美味しいのよねえ」

 

週末が近くなると学生たちはざわざわ落ち着かなかった。

土曜日になると盛り場に繰り出し無意味に騒ぎ立てる。

そこは異性との出会いや、友達づくりの場なのだ。

イズミは王族の子女として入学当時は他の学生に距離を置かれていたが、率先してコンパに参加したりサークル活動に励むことで一般の学生との垣根を崩していった。

今では親友と呼べる友達もでき、ボーイフレンドもいた。

イズミはずっと前からそうなりたかった。

ミカドの娘に生まれたことで、幼い頃からイズミは窮屈さを感じていた。

イズミにはミカドの地位を継ぐ権利、帝位を継ぐ権利がない。

エーカ帝国憲法ではミカドの地位を継ぐのは、皇帝の長男と定められていた。

しかし、イズミはミカド一族の一人娘。

イズミが生まれて程なくして、母である皇妃が婦人科の病で大手術を受け、子供を産めない体になってしまったのだ。

今のミカドに万が一のことがあれば、誰がミカドの位を継ぐのか?

憲法で定めた通りならミカドの兄か弟とされていたが、ミカドには姉と妹しかいなかった。

困り果てた側近たちはミカドに側室を進言したが、ミカドはその話には乗らなかった。

憲法を改正してイズミがミカドの位を継ぐのか?

それが一番現実的だったが、エーカ帝国内の超保守派が猛反発しいつまで経っても結論は出なかった。

このようなミカドの跡継ぎ問題にイズミは辟易していた。

いっそのこと、ミカド一族と縁を切り、庶民になろうか。

イズミはよくそう妄想していた。

 

「イズミ、今日はこれからどうするの?」

 

その日の最終講義が終わり、イズミは一番の親友、優子と講堂を出た。

 

「今日はね、裕太と約束があるんだ」

「そっかそっか。いいなあ、イズミは。あんなカッコいい彼ピがいて」

「えへへ、じゃあね。裕太、部室で待ってるから」

「うん!また明日ね!」

 

家庭教師のアルバイトに向かう優子と別れ、イズミはサークル会館に向かった。

サークル会館は様々なサークルの活動場所で、それぞれのサークルの部室では学生たちが思い思いに過ごしていた。

 

「こんにちはあー」

「おお、イズミちゃん来たか。おーい、裕太!お姫さまのお越しだぞー」

「おお、イズミ来たか!」

 

雑然とした部室の中では”自由民主青年連盟”のメンバーがギターを弾いたり、タバコを吹かしたり、ゲームをしたり、好きなように寛いでいた。

自由民主青年連盟は政治的な思想を持つ学生が集まり、国家主義民族主義といった全体主義的なものを良しとせず、個人の尊重、自由や平等、真の民主主義を目指す活動をする政治団体のようなサークルだった。

自由民主青年連盟は北條大学以外の大学にもサークルとして存在し、政治的には野党寄りの考えを貫き今の政治には懐疑的で改革を目指す活動をしていた。

このため、学内でも一般社会でも”左翼的な学生団体”と受け取られることが多かったが、イズミは寧ろ自由民主青年連盟のそんなところを気に入っていた。

既存のものを疑い、自由を求め、新しい国づくりを目指す。

イズミはそんな考え方に心酔すらしていた。

イズミのボーイフレンド、竹内裕太は自由民主青年連盟の北條大学支部のリーダーで、連盟のスポンサー的な存在である民主協働党の青年部の学生会員として重要な地位にいた。

幼い頃からミカド一族の一員として過ごし、何不自由ない生活をしてきたイズミだったが、裕太と出会って変わっていった。

国民は重税や不景気、不穏な国際情勢の中で、苦しい生活をしているのにミカド一族は贅沢三昧。

与党、憲民党の議員や関係者も左団扇のような生活。

一流企業、フィロス電機のような大企業は儲けを貧しい者に還元せず私腹を肥やす。

何かが間違っている。

イズミは思春期になる頃にはそう考えるようになっていた。

にも拘らず、改革は一向に進まない。

そう疑問に感じていたところ、北條大学に入学し裕太と出会った。

最初はミカドの娘だと距離を置かれたが、何度も何度も話すうちに裕太と打ち解けられるようになっていった。

今では北條大学の自由民主青年連盟のメンバーの誰もが、イズミを皇帝一族としてではなく、一人の個人として尊重し仲間と認めてくれていた。

 

「イズミ、メシでも食いに行くか」

「わあ、大将の肉みそラーメンがいいなあ」

「ようし、大将行っか」

「うん!」

 

サークル会館を出たイズミと裕太は、サークル会館の外に停めてあった裕太の自転車に二人乗りして北條大学の学生に根強い人気を誇るラーメン店・大将に向かった。

キャンパスを出て大きな通りを走り、赤信号で裕太が漕ぐ自転車は停まった。

 

「あ、あいつら、また喚いてるぜ」

 

裕太の視線の先には人だかりができていて、人だかりが向いている方を見るとマイクを握った男がワンボックスカーの上に上がり何かを大声で訴えかけていた。

 

「あら、カラハ国防十字隊じゃない」

「うん。あいつら、最近ますますうるせえんだよなあ」

 

信号を渡った先には大きな駅があったが、駅前の広場では民族主義団体のカラハ国防十字隊の”隊長”岡本がマイクを握り大声で持論を展開していた。

カラハ国防十字隊は、ミカド至上主義を主張し、外国人の排除、男系中心の家族観、防衛における先制攻撃などを説く最右翼の団体だった。

裕太が所属する自由民主青年連盟の対極にある団体であり、その真ん前を通るのは憚られた裕太はイズミを後ろに乗せた自転車の向きを変え、遠回りしてラーメン屋の大将に向かった。

 

「ったくもう。十字隊の奴ら、うぜえことこの上ねえよな」

「そうね。あれを支持する人があんなにいるなんて信じられないわ」

「全くだぜ。国が傾いてくると右旋回して保守化するのはわかるけどよ。あいつらの言ってることは無茶苦茶だろ。外国人を見たら野良犬だと思えって、人権無視も甚だしいぜ」

 

ラーメン店・大将に着いたイズミと裕太がカラハ国防十字隊の批判をしていると、注文したラーメンが運ばれてきた。

 

「はいよ!お待ち!」

「なあ、大将。大将もそう思うだろ?」

 

裕太に大将と呼ばれた店主は、丼をテーブルの上に置きながらうんうんと頷いた。

実はこの店主も学生時代は自由民主青年連盟のリーダー格として活動し、就職後は労働組合の幹部を務めるなど庶民の生活を良くすることを志していた。

 

「それもそうだがイズミちゃん、どうだい?やっぱり裕太と結婚するのかい?」

「やだあ、大将ったらあ」

「俺はそうしてくれたら世界で一番に祝福するけどね。ミカドの娘だからって、一生王族の狭い世界の中でしか生きられないなんてつまらないだろ」

「そうそう!それそれ!」

 

イズミは首が飛んで行きそうなくらい縦に振りながら大きく頷いた。

 

「ま、今日もゆっくりしていきな。デザートのアイスも冷凍庫に入れてあるしな」

「はあい」

 

ラーメン大将の店主、篠原雄一は学生からの人望も厚かった。

裕太とのデートはほとんどがラーメン大将でだったが、窮屈な王族の世界とは違う。

贅沢などはできなくても気楽に羽を伸ばせるのが一番。

イズミは常日頃からそう考えていた。

 

「じゃあ、また明日な」

「うん!」

 

ラーメン大将でのデートの後は、裕太はいつもミカドの宮殿前までイズミを自転車で送ってくれた。

ミカドの宮殿がある広大な敷地に入る正門まで、裕太はイズミを送ってきてくれた。

正門には右と左に一人ずつ門番がいて侵入者がいないか常に見張っていたが、イズミが帰ってくると恭しく頭を下げ門を開放してくれた。

門を通り、イズミがミカドの宮殿の敷地に完全に入るのを見届けると、裕太は自転車を漕いで宮殿から離れていった。

 

 

「ただいまあ」

「イズミさま、おかえりなさいませ」

 

宮殿に戻ってきたイズミを真っ先に迎えてくれたのは、家政婦のオシゲだった。

オシゲはイズミが幼い頃からいつも上手くイズミとミカドの間を取り持ってくれていた。

 

「オシゲさん、まだ起きてたの」

「はい。ミカドさまがお話があるそうです」

「またあ?もう、どうせいつも同じことしか言わないくせに」

 

イズミは口を尖らせ、面倒だと思いながらも父であるミカドがいる黄金の間に向かった。

 

「お父さまあ、帰ったけど」

 

イズミが黄金の間のドアをノックし中に入ると、ミカドはテレビを見ながらイズミを待っていた。

 

「イズミ、またあの男と一緒だったのか?」

「裕太のことならお父さまが何を言おうが無駄よ」

「そういう、左翼みたいなことが悪いとは言わんが、お前は貴族の中から婿を取って王室を継ぐことになっているんだ。少しは自重しなさい」

「だからあ、それはお断りだって言ってるでしょ!あたしは大学を卒業したら裕太と結婚するの!」

「お断りって、そんなことが通用すると思っているのか?!王室の継承はどうなるんだ?」

「知らなああい。あたしが継がなくても、ボウズの叔父さまがいるじゃない。どうせあたしはミカドにはなれないんだし、好きにさせてもらうわ」

「ボウズに継がせたところで、それは一時しのぎにしかならんだろう。ボウズにも息子はいない。その後が続かんだろうが」

 

エーカ帝国憲法ではミカドの直系に男子がなくミカドに兄も弟もいない場合は、ミカドの遠戚が王位を継ぐことを認めていたがそれはあくまでもピンチヒッターのようなもので、ミカドの直系に男子が生まれれば王位を継がせることは可能と定められていた。

つまり、ミカドの又従兄弟、ボウズが王位を継いでもイズミに男子が誕生すればその子が王位を継ぎ、直系の家系に王位が戻ってくる。

ミカドは何としてもイズミの縁談をまとめたかった。

しかし、イズミにはその気が全くないだけでなく、国に対して批判的な立場の左派側にいる人間と懇ろな関係であることをミカドは苦々しく思っていた。

 

「イズミ、ボウズの件とは別の話だが、カマドのところの武蔵との縁談のことも考えなさい」

「それはパス!武蔵はオタクだし、ネクラだし、気持ち悪いから大ッ嫌い!」

 

カマドはミカドの遠戚でかろうじて王室のメンバーであり、そこの長男である武蔵とイズミと年も近くミカドはなんとか二人の縁談をまとめようと躍起になっていたが、イズミにはその気は全くなかった。

 

「とにかく、話ってそれだけ?あたし、明日が提出のレポートがあるのよね。おやすみなさい!」

「イズミ!待ちなさい!」

 

イズミはミカドを無視したように黄金の間を出ていった。