喫茶プリヤ 第三章 最終話~ラストステージ

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ここから本編です。

写真はイメージです。

 

「和也、ごはんできたわよ。食べるでしょ」

 

美里はできあがった料理を和也に勧めた。

美里はオモルフィではすみれの名前でも、プライベートでは本名で和也に尽くしていた。

 

「お、旨そうだなあ」

「冷めないうちにどうぞ」

「いっただきまーす」

 

和也は美里の料理に舌鼓を打った。

 

「おお、旨ええ。やっぱり美里の手料理が一番だなあ」

「まーた、そんなこと言って。他にもいい人がいるんでしょう」

「そんなこたあないよ!俺は美里が一番なんだからさ」

「そうかしら」

 

和也の奔放な女性関係は常にネットニュースで取り沙汰されていた。

ネットニュース以外にも、和也は面白おかしくネット上の巨大掲示板で噂話のネタにされていた。

女性関係の話題以外でも和也は政治色を強めていると、あちらこちらで話題にされていた。

 

「ねえ、和也、女関係だけじゃなくても政治に首を突っ込もうとしてるって噂されてるじゃない」

「ああ、その話な」

「どこから話が漏れてるのかわからないけど、当たらずとも遠からずって感じでしょう。いい加減に止めといた方がいいと思うのよね」

「へ?止めるって、何を?」

「花村と関わるのは、もう止めた方がいいと思うのよ」

 

美里はスープのお代わりを盛りつけながら、花村代議士との関係を絶った方がよいと忠告した。

 

「あの人に関わるとロクなことにならないわよ」

「そうかなあ。美里だって、あのオッサンの愛人やってんじゃん」

「あたしはお金を貯めたくてホステスをしているの。花村とのことも割り切ってるし。自分のお店を出したいって、ずっと言ってるでしょ。花村からの援助も全部貯金に回してるわ」

「美里はそれでいいんじゃないか。俺はさ、もっともっと上に行きたいんだ。花村は次の総理に確定だろ。こりゃあ、仲良くしといてだぞ、あわよくば俺も政治家になってだぞ。うひゃひゃひゃひゃ」

「下品な笑い方はやめなさいよ。あの人の後継者候補たちがその後どうなったか、知ってるでしょう」

 

花村代議士の後継者とされる若者は今まで何人かいたが、選挙で当選したものの爆弾テロに遭って命を落としたり、精神的に追い詰められて自室で首を吊ったり、行方不明になったまま消息を絶った者もいた。

 

「ね、ロクなことにならないでしょう。それに、花村は恐ろしい人間よ。竜嶺会と連んで人殺しも何とも思っちゃいないんだから」

「お前さ、とか何とか言っておいて、よく愛人なんかやってるよな」

「だから、あたしはお金を貯めたらすっぱり縁を切るつもり。あたし、喫茶店を出したいの」

「そうだっけ?」

「もう、前から言ってるでしょう。ちょっとレトロな感じのお店がいいなあ。そうだわ、緑川町にあるプリヤって知ってる?」

「プリヤ、ああ、知ってる知ってる」

 

和也はプリヤの名前を聞いて頷いた。

 

「一度、入ってみたいのよねえ。ぱっと見は古ぼけた構えだけど、落ち着いた感じでいい雰囲気だし。あんなお店を出したいなあ」

「いいんじゃないか、別に。さてと、旨かった、腹いっぱいだよ。そろそろ出かけなきゃな」

「今日は、ツアーのファイナルね」

「まあな。美里にはいい席取ってやったから、俺のカッコいい姿を見ててくれよ」

 

その日は和也の全国ツアーの最終日だった。

チケットは完売し、それでもファンの熱烈な働きかけで急遽立ち見席が開放されるほどの人気だった。

 

「じゃあ、行ってくらあ」

 

マネージャーが迎えに来てマンション前で待っているはず。

和也は颯爽と出かけて行った。

 

 

 

超人気ミュージシャンになった和也のツアー、最終公演には多くのファンが詰めかけ会場は満員で熱気が籠っていた。

ライブの開演を告げるかのように会場内のBGMが途切れ、場内の照明が落ちると詰めかけたファンは歓声をあげて一斉に立ち上がった。

 

「カズヤー!!」

「キャー!!カズヤー!!」

 

ステージに登場した和也が女性ファンの声援に応えるように右手を上げると、ワッとまた歓声があがった。

派手なロックの一曲目が始まると拳を振り上げる者、リズムを取りながら踊る者、大声で歌い出す者、各人各様に高まった感情をぶつけてきた。

一曲目の勢いのまま、数曲歌ったところで和也は会場のファンに向けて語りかけ始めた。

 

「みんな、今日はありがとう。みんなのお陰でツアーも無事に走ってくることができたんだ。そして、俺が予てからお願いしているアンドロイド人権法案のことも忘れないで欲しい」

 

また始まったか。

会場に来ていた美里は政治的な発言を始めた和也をじっと見ていた。

 

「アンドロイドとの共存は俺たちに薔薇色の未来をもたらしてくれるんだ。俺はみんなを信じている。来週の国民投票では、ぜひ賛成票を投じよう!」

 

和也がきっぱり言い切ると、会場からは更に大きなどよめきが起こり、和也を絶賛するコールが響いた。

 

「カズヤ!!カズヤ!!カズヤ!!カズヤ!!」

「そうだそうだー!!俺たちはアンドロイドと共存するんだー!!」

 

女性ファンだけでなく、男性ファンからも和也を讃える声があがった。

ライブグッズとして購入したシンボルの旗を振りながら、集まったファンは熱狂していた。

こうしてMCで話す内容はあらかじめ花村代議士の秘書が考えたものであり、和也はそれを暗記して読み上げているようなものだった。

こうすれば聴衆は動く。

和也は仕組まれたメッセージのスピーカーのようなものだった。

そんなことは知らない和也のファンは熱狂し、暗転したステージ上でピンスポットで照らされた和也に集まったファンの目は釘付けになっていた。

 

「じゃあ、新曲です。聴いてください」

 

和也の話にじっと耳を傾けていた聴衆はまた歓声をあげた。

ステージの袖から出てきたスタッフからギターを受け取り、和也が歌い出そうとしたその時だった。

スタッフが出てきた反対側のステージ袖から、人影が飛び出してきて和也に突進するかのような勢いで駆け寄ってきた。

 

「ん?」

 

気配を感じ取った和也が見ると、若い女性が駆け寄ってきていた。

見たことのない若い女性。

和也は何が起こっているのかわからなかったが、次の瞬間、脇腹に違和感を感じた。

 

「え?ええ?」

 

和也が自分の脇腹を見ると、包丁が突き立てられていた。

 

「キャー!!」

「何だ!!あれ!!」

 

和也が刺された。

それに気づいた観客は悲鳴を挙げ、騒ぎ始めた。

なんと、ライブ中にステージの上で和也が刺された。

ステージ脇から飛び出してきた若い女性は、和也を刺した後、包丁を引き抜いて和也に何度も突き立てメッタ刺しにし始めた。

 

「おい!何やってんだ!!」

「やめさせろ!!」

 

両側のステージ脇からスタッフが飛び出してきたが、それまでの短い間に和也はメッタ刺しにされステージ上に倒れ込んでいた。

 

「お、お前、誰だ…」

 

和也は意識が遠のく中、心当たりのない若い女性に尋ねた。

 

「あなたは約束を破りましたね」

 

約束。

何のことなのか。

和也は遠のいていく意識の中で、考えようにも考えられなかった。

 

「プリヤの約束、破りましたね」

「ん?プリヤ…」

 

包丁を持ったまま血まみれで立っている若い女性はスタッフに取り押さえられた。

 

「お前、誰だ?!おい!警察呼べ!!」

「おーい!!救急車呼べー!!早くしろ!!」

「和也、すぐ病院に行くからな!!がんばれ!!」

 

大量に出血して倒れている和也にスタッフは大声で呼びかけていたが、和也はそのまま意識を失ってしまった。