喫茶プリヤ 第三章 十三話~隠蔽と自信

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ここから本編です。

写真はイメージです。

 

あおいが飛び出して行ってしまってから、和也はそれをいいことに夜な夜な他の女性を部屋に連れ込んでいた。

 

「和也さんったら、あたしの他にも付き合ってる人がいるんでしょう?」

「そんなことないよ。俺は瑠美一筋だからさ」

 

和也は他の女性にも同じようなことを言っては、日替わりで違う女性と楽しんでいた。

自宅マンションに帰ってきた和也は、瑠美の肩を抱いたままエレベーターのボタンを押した。

和也はデーバ重工の社長秘書をしている瑠美を言いくるめ、貴重なアンドロイド開発のデータを盗ませてそのデータをフィロス電機に横流しして利益を得ていた。

今夜は瑠美とたっぷり楽しもう。

和也はエレベーターを降りて部屋の玄関前までやって来た。

 

「あれ?鍵が開いてるな?」

 

玄関のドアのノブに触れると鍵が開いたままになっていた。

朝、出かける時に鍵をかけ忘れたのか。

和也は深く考えずに瑠美と一緒に部屋に入った。

 

「うわわわ!!」

 

灯りをつけた和也は驚いて後退りした。

灯りがついた部屋の真ん中にはポツンとあおいが座っていた。

 

「あおい!!何やってんだ、お前!!」

「え?この人、誰?」

 

和也が複数の女性と同時進行で付き合っているとは知らない瑠美は、部屋の真ん中に女性が座っているのを見て和也に問うた。

 

「ちょっと!和也、どうなってんのよ!!」

 

和也はそんな瑠美には構わず、座ったままのあおいを問い詰めた。

 

「あおい!何やってんだ、お前?!」

「和也、許せない。あかねのこと、あなたの仕業でしょ!!」

「はあ?何言ってんだ?」

「あたしが襲われたのも、あなたのせいね」

「はあ?何のことだよ?!」

 

和也は確かにあおいのことを花村代議士に相談はしていた。

花村代議士は任せておけとだけ言ったが、あおいの襲撃はもちろん、あかねのことをあおいに問われても和也は関知していなかった。

 

「和也、さては、花村の力を使ってあたしたちを始末しようとしたのね」

「あ?知らねーよ!何なんだよ?!」

 

あおいは惚ける和也を睨みつけて立ち上がったが、その手には包丁が握られていた。

何をするつもりか、和也が身構えているとあおいは包丁を振り回して襲いかかってきた。

 

「和也!許せない!!死んでお詫びしなさいよ!!」

「うわ!よせ!やめろ!!」

 

瑠美のことはそっちのけで和也は部屋の中を逃げ回り、瑠美は呆然と二人を見ているだけだった。

 

「和也!あなたを殺して、あたしも死んでやる!」

 

あかねを殺されたあおいは、半狂乱になって和也を追いかけ回した。

 

「やめろっつってんだろ!!」

 

和也はあおいを取り押さえたが、あおいは暴れて包丁を振り回していた。

 

「おい!動くなって!!やめろ!!……あ!!」

「うう……!!」

 

包丁を振り回していたあおいだったが、揉み合ううちに自分の腹に包丁を突き立ててしまった。

そのまま倒れたあおいの腹からは大量の血が流れて、みるみるうちに床に広がった。

 

「和也!どうするのよ!!」

 

二人の揉み合いを見ているだけだった瑠美だったが、慌てふためいて大声をあげた。

 

「やべえ、やっちまったな」

「救急車、呼びましょうよ」

「それは駄目だろ。俺、捕まっちまうよ」

「じゃあ、どうするのよ?!」

 

あおいは腹に包丁が刺さったまま動かない。

即死状態なのかはわからなかったが、この状況では和也が罪に問われてしまう。

 

「そうだ!こういう時は…」

 

和也はどこかに電話をし始めた。

 

「もしもし、加原です。あのう、ちょっと面倒なことになって…」

 

どこの誰に連絡しているのか。

瑠美にはわからなかったが、和也は今の状況を説明していた。

 

「わかりました。15分後に到着ですね」

 

そう言うと和也は電話を切った。

 

「和也、誰に連絡してたの?!」

「うん、これで大丈夫だ」

「え?」

 

瑠美が状況を理解できずにいると、本当に15分で誰かが訪ねてきた。

和也がロックを解除すると、大きなスーツケースを引いた男が二人と、もう一人眼鏡をかけた男が部屋にやって来た。

 

「加原さん、大変なことをしてくれましたね」

「申し訳ありません」

「前にも同じようなことがありましたよね。死体の処理も手間がかかるんです、少しは自重してください」

「わかりました。気をつけます」

 

いったい何の話をしているのか。

瑠美が呆気にとられていると、スーツケースを引いてきた男二人はあおいに息があるかどうかを確かめていた。

 

「駄目ですね。死んでます」

「わかった。処理しろ」

「はい」

 

あおいはもう呼吸をしていなかった。

それを確認すると男たちはあおいの体を折り曲げて畳み、スーツケースの中に押し込めた。

スーツケースの鍵が閉められると、眼鏡の男が表情ひとつ変えずに和也にこう言った。

 

「あとはこちらで処理します。マスコミには漏れないようにしておきますが、最近はネットニュースがうるさいですからね。何か聞かれても一切答えないように。いいですね」

「わかりました。処理、よろしくお願いします」

 

和也が深々と頭を下げると、眼鏡の男は一瞥しあおいの死体が入ったスーツケースを二人の男に引かせて部屋を出て行った。

 

「ちょっと、あの人たち、何?何なの?」

「ああ、いろいろ世話になってるんだ。瑠美、このことは誰にも言うなよ」

 

謎の眼鏡の男は花村代議士の私設秘書の伏木田で、トラブル処理を専門に担当していた。

スーツケースを引いていたのは、花村代議士とも関わりの深い反社会的勢力、竜嶺会の構成員。

花村代議士と繋がりのある人間がトラブルに巻き込まれた時に現れては問題を揉み消していた。

和也は何か困ったことがあれば連絡するようにと教えられていた番号に電話して、伏木田と竜嶺会の構成員を呼んだのだった。

 

「そんな人たちと知り合いだったの?」

 

瑠美は眉をひそめた。

 

「まあな。ああいう人間と繋がるのも悪くはないんだぜ。今みたいに不都合なことはなかったことにしてくれるしな」

「だからって、竜嶺会なんて手の付けられない連中でしょう」

「そういう奴らとも繋がっておかないと、この世界じゃやっていけないんだよ」

「そうかしら?」

「そうだよ」

「そうかしら。そういう人とは関わらない方がいいと思うけど。花村代議士だっていい噂は聞かないし」

「うるせえなあ。俺に指図すんのかよ。お前がデーバ重工のデータを俺を通してフィロス電機に売ったってバラしてもいいんだぞ」

 

和也が居直ると瑠美は口をつぐんだ。

 

「お前だって、俺と付き合ってればいい思いができるんだ。俺は、スーパースターの加原和也なんだからな」

 

和也は自信たっぷりにそう言い切った。