喫茶プリヤ 第三章 十二話~姉妹の悲劇

本編の前にご案内です。

この小説のページの姉妹版「とまとの呟き」も毎日更新しています。

こちらは私の拙い日記、私の本音です。

下のバナーをクリックで「とまとの呟き」に飛べますよ。

よろしくお願いします。

tomatoma-tomato77.hateblo.jp

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここから本編です。

写真はイメージです。

 

「お姉ちゃん、二人で頑張っていこうよ」

「あかね、お姉ちゃんのことはいいから。大学だって行きたいんでしょう」

 

半同棲状態だった和也のマンションを飛び出したあおいは、妹のあかねの元に身を寄せていた。

 

「お姉ちゃん、ここも引っ越そうよ。あんな男の援助で暮らすなんて真っ平御免!二人で暮らせるアパートでも探そうよ」

 

あおいから話を聞いた妹のあかねは、和也からの援助で暮らしているマンションを出て、姉妹で暮らそうと提案した。

 

「あたしもバイトとか始めるから。ねえ、お姉ちゃん。子供が生まれたら、お姉ちゃんだって働けないだろうし」

「あかね、あんたはいいから。勉強しなさい」

「じゃあ、どうやって子供を育てるの?」

「生意気言ってないで。ほら、遅れるわよ」

「あ、ホントだ!行ってきまーす!」

 

学業優秀なあかねは、和也の援助で有名私立の女子高に通っていた。

和也の横暴さに愛想を尽かしたあおいだったが、子供を産んでもあかねに学業を続けさせるにはどうしたらいいか模索していた。

和也に対する意地もあり、あおいは絶対に子供を産み、育てようと固く決心していた。

そのうえで、あかねには学業を続けさせたかった。

自分とは違い、あかねは学業優秀。

あかねの夢は医師。

その夢をかなえさせるにはどうしたらいいか。

できれば、在宅でもできる仕事はないだろうか。

育児と両立できる仕事はないだろうか。

あおいはあかねが登校後、小一時間ほどパソコンに向かい情報を仕入れていた。

在宅の仕事はあっても給料は圧倒的に安い。

これでは生まれてくる子供とあかねを養い、あかねを大学に行かせることは難しい。

クラブのホステスにでも復帰するしかないのか。

あおいがため息をついてパソコンから離れようとした時、手元においていたスマホに非通知で着信した。

非通知とはいったい誰からなのか。

 

「もしもし」

 

あおいが電話に出ると、聞いたことのない男の声だった。

 

「八代あおいさんだね」

「はい、そうですけれど」

「お宅の妹さん、あかねちゃん、事故に遭って病院に運ばれたよ」

「ええ?!」

 

あかねが事故に遭った。

しかし、それにしても非通知でかけてくるとは。

あおいはいたずら電話ではないかと聞き返した。

 

「いたずらなんかじゃないよ。信じられないならホスピターレ病院に行ってみな」

 

非通知で連絡してきた相手はそれだけ言うと一方的に電話を切った。

ホスピターレ病院といえば、街でも有名な総合病院だった。

あおいは取る物も取り敢えず病院へと急ぐことにしたが、慌てて部屋を出て鍵をかけ一階まで降りてくると、人相の悪い男が三人エントランスを出たところに待ち構えるようにして居た。

 

「ちょっと、すみません」

 

あおいが脇を通り抜けようとすると、不意に腕を掴まれた。

 

「何するんですか?!離して下さい!」

「まあ、そう言うなよ」

「俺たちと遊ぼうぜ」

「何ですか?!警察呼びますよ!」

 

さっき非通知でかかってきた不審な電話といい、エントランスで待ち構えるようにして居た男たちといい、何かがおかしい。

あおいはスマホを取り出し、警察に連絡しようとしたがスマホを取り上げられてしまった。

 

「おら!こっち来いや!」

「ちょっと!やめてください!」

 

あおいは大声をあげたが、エントランス脇の人目につかないゴミ出しスペースに連れ込まれていきなり殴られて転倒した。

 

「おらおらおらー!死ねや!」

「助けて!誰かー!!」

 

三人の不審な男はあおいを取り囲んで腰や腹を狙ったように激しく蹴った。

このままではお腹の子が危ない。

怪しい男たちの狙いはそれなのか。

あおいは必死にお腹を庇ったが、三人がかりで蹴られては庇いきれなかった。

まさか、子供は邪魔だと言っていた和也の差し金なのか。

そんなことも頭をよぎったその時、マンションの住民なのか誰かが大声で止めに入ってくれた。

 

「おい!!お前ら、何やってんだ!!」

「うわ、やべえ!おい、ずらかるぞ!!」

 

あおいに暴力を振るっていた三人の男は、見つかるやいなや大慌ててで逃げ出し、停めてあった車に乗って猛スピードで走り去った。

 

「大丈夫ですか?!」

「ありがとう…ございます」

 

あおいは腹の痛みに耐えきれず、絞り出すように答えた。

 

「血が出てるじゃないですか!救急車呼びましょう!」

 

助けてくれたマンションの住人は、出血しているあおいを見て大急ぎで救急車を呼んでくれたが、あおいは意識が遠のいていった。

 

それから、どのくらい時間が経ったのか。

気がつくとあおいは病院のベッドの上にいた。

腹の痛みはまだ治まらず、お腹の子供はどうなったのかだけが気がかりだった。

誰も来てくれないのか、あおいは手元のナースコールを押してみた。

 

「八代さん、大丈夫ですか。先生のお話、聞けますか?」

 

ナースコールで来てくれた看護師に車椅子に乗せてもらい、あおいは医師の説明を聞くことにした。

歩こうにも足に力が入らない。

お腹の子供は無事なのか、あおいはそれだけが心配だった。

 

「八代さん、担当医の鈴木です。今の状況をご説明しますね」

「はい、よろしくお願いします」

「まず、お子さんですが、残念です」

「ええ!」

 

恐れていた通りだった。

あおいのお腹の子は流産してしまった。

腹や腰を強く蹴られたことで、子供は死んでしまった。

担当医は丁寧に説明してくれたが、あおいはショックでうわの空だった。

やっぱり、不審な男たちは和也の差し金に違いない。

許せない。

あおいは担当医の説明を聞きながら、子供の死を悲しむと同時に和也に対する憤りで涙をポロポロ零していた。

説明が終わった後も安静にしていなくてはならない。

病室に戻ったあおいは、まだ涙を零しながら和也に対する怒りで体を震わせていた。

その時、また非通知で電話がかかってきた。

ベッドの脇の床頭台の上に置いたスマホに、あおいは手を伸ばした。

 

「もしもし」

「八代あおいさんだね」

「はい、そうですけれど」

「この通話、動画も見れるはずだ。いいもの見せてやるから、動画もオンにしてみな」

 

一体全体どういうことか。

不審に思ったが、あおいは言われた通りに画像を見ながらの通話に切り替えた。

 

「ええ?!」

 

動画を見たあおいは目を疑った。

送られてきた動画の中で、あかねが体に重りを巻き付けられ怪しげな男たちに手足を掴まれていた。

 

「これから、妹さんの死体を海に放り投げて捨てる。ヒャーッハッハッハッ!!」

「何やってるの?!やめて!やめなさいよ!!」

「もう遅いって、この娘はもう死んでるんだ。おい、やれ」

 

電話をかけてきたリーダー格の男の指示が出ると、あかねの手足を掴んでいた男たちが勢いよくあかねの体を海に放り投げた。

 

「あかねーーーーー!!」

 

スマホの小さな画面の中で、重りをつけられたあかねの体はたちまち沈んでいった。

何という酷いことをするのか。

何の為にこんな酷いことをするのか。

あおいは悲しみと悔しさで一人ぼっちの病室で声をあげて泣いた。

これも和也の差し金なのか。

和也の背後には黒い噂が絶えない政治家や大企業の幹部がいる。

そんなろくでもない人間と繋がる和也ならやりかねない。

怒りに震えるあおいはベッドから降りて着替え始めた。

このままおとなしく寝ているわけにはいかない。

あおいは医師や看護師の目を盗んで病院を抜け出した。